医療過誤事件では、医師の責任を追及するためには医療記録の収集が必要であることを以前のブログでご紹介しましたが、収集したカルテ等を基に、医療ミスがあったか否か判断するには、専門家である医師の意見を聞かなければ困難な場合も多いといえます。

 裁判所も、法律の専門家ではあっても医療の専門家ではありませんから、医師の過失等の判断をするには専門家である医師の意見が重要な資料となります。そこで、過失などについて立証責任を負う患者側としては、過失などの裏付けとなる医師の意見を証拠として提出することが重要な立証活動となります。

 当事者が学識経験のある第三者に依頼し、経験則についての専門的知識あるいは経験則を用いて得た事実判断の報告を「私的鑑定」といいます。協力を依頼した医師に意見を記載してもらった書面を証拠として提出する場合のその意見書は、「私的鑑定意見書」といいます。

 鑑定は、裁判所に選任された鑑定人の報告によっても得られますが、立証責任を負う患者側としては、過失等を裏付ける専門家の意見を積極的に提出する必要があります。

 まず、患者側としては意見を提供してくれる医師を見つけなければなりませんが、その協力を得ることは容易ではありません。ましてや、名前を出して裁判に提出する意見書の作成に協力をしてもらうことは困難を伴います。
 協力医を得るルートとしては、

① 第三者から紹介を受ける
② 研究会などで知り合った医師に依頼する
③ 当該分野の文献・著書が多い医師に直接当たる
④ 当該事案の前医・後医に依頼する

などが挙げられています(加藤良夫・増田聖子「患者側弁護士のための実践医療過誤訴訟」日本評論社(2004年)102~103頁)。

 紹介の一場合として、依頼した弁護士が医療事故情報センターや医療問題弁護団に所属している場合は、それらの機関を通して協力医の紹介を受けることもできます。

 次に、なんとか協力医を得、有利な鑑定意見が得られたとしても、「生じた結果は予測できた」「医師は○○○の治療をすべきであった」「○○○の治療をしていれば結果は避けられた」などという結果のみが記載された私的鑑定意見書では足りません。
 専門家の鑑定意見も、それがどの程度信用できるのか、その意見を判断の資料として採用するか否か、といった判断は裁判所の自由な心証に委ねられます。

 では、どのような意見を提出しなければならないのでしょうか。
 医師といってもその専門分野は様々であり、裁判所の評価を得るためには、問題となっている事案を専門とする医師であることが必要です。そして、意見書についても、その形式や内容が信用するに足りるものでなければなりません。
 この点について参考になる判例をご紹介します。

 顔面けいれんの根治術である脳神経減圧手術を受けた後間もなく患者が脳内血腫を生じ死亡した事案で、最高裁(最判平成11・3・23)は、原審が依拠した鑑定について

 鑑定人Aの鑑定は、診療録中の記載内容等からうかがわれる事実に符合していない上、鑑定事項に比べ鑑定書はわずか一頁に結論のみ記載したもので、その内容は極めて乏しいものであって、本件手術記録、(患者の)CTスキャン、その結果に対する(医師らによる)各記録、本件剖検報告書等の記載内容等の客観的資料を評価検討した過程が何ら記されておらず、その体裁からは、これら客観的資料を精査した上での鑑定かどうか疑いがもたれないわけではない

として、Aの鑑定を過大評価できず、これに依拠した原審の判断には違法があるとしました。

 また、ポリープ摘出手術を受けた患者が術後に出血性ショックにより死亡し、担当医が追加輸血等を行わなかったことの適否が問題となった事案で、最高裁(最判平成18・11・14)は、
 原審が依拠した医師側提出の私的鑑定意見書Bについて、

・当時の患者の症状に照らすと、患者の「全身状態が良好に保たれていた」とする意見を採用することは出来ない

・輸血に合併症の危険があることが輸血を追加しないことを正当化する根拠としているが、本件において患者が輸血の追加を必要とする状態にあったとすれば、その一般論は過失の結論を左右しないなどとし、他方、患者側が提出した私的鑑定意見書Cについて

・その意見が、当時の患者の赤血球数等の数値の変化や看護記録に記載された当時の症状を基に、輸血の必要があったと判断していることを指摘し、合理性を否定できない

とし、それにもかかわらず双方の意見書の内容を比較検討する手続も執ることなく意見書Bに依拠した原審の判断は採証法則に違反すると述べています。

 これらの判例によると、鑑定意見は、結果のみならずその判断にいたる過程も示されていること、その判断が単なる一般論ではなくその事案の具体的事実に基づいたものであること、判断の前提とした診療経過等に関する事実が診療記録などの客観的資料と一致していること、鑑定意見に至った判断に合理性があることなどが必要であるといえます。

 患者側としては、まず協力医を見つけることが必要でありますが、その後も、鑑定意見の価値を裁判所に認めてもらうために、上記のような証拠としての評価を得られる意見書を得られるよう努力をしなければなりません。

弁護士 池田実佐子