判例(名古屋地方裁判所平成14年8月28日抜粋)

「(1) 本件初診時における注意義務違反の有無について
原告は,本件初診時に被告病院の医師らがAについて肺癌の可能性を認識することは容易であったのにこれを認識せず,肺癌に関する精密検査を実施すべき義務又は専門病院での検査等を強く勧告すべき義務を怠ったと主張する。→×

ア 本件初診時におけるAの症状
カルテによれば,本件初診時のAの主訴は胃の不調であり,肺癌の初発症状である咳及び咳き込みの訴えはあるものの,痰やその他の症状の訴えはなかったものと認めることができる。

イ 胸部レントゲン写真の陰影について
本件初診時の胸部レントゲン検査の結果,左肺門部に陰影が認められ,これについてB医師が異常影の可能性も考慮した事実を認めることができる。しかし,本件初診時の胸部レントゲン写真によって,肺癌を明確に疑わせるような異常影を指摘することはできないものと認められる。

ウ 本件初診時の注意義務の内容及びその違反の有無について
本件初診時におけるAの主訴が胃の不調であったこと,被告病院におけるAの主たる既往歴が胃潰瘍であったこと,本件初診時前の平成10年3月19日にもAが被告病院で胃潰瘍薬(ネオ・ユモール)を処方されていたこと,同年5月20日の胃内視鏡検査で胃潰瘍が認められたこと等からすれば,本件初診時に,B医師がAについて胃潰瘍の再発と診断したことは適切であったと認めることができる。

そして,本件初診時に訴えのあった咳については,1週間から10日間くらい前に現れたものであって(乙1号証),深刻な症状とまでは認めることができず,また,前示のとおり,咳以外に肺癌の初発症状の訴えはなく,レントゲン写真上でも明確な異常影までは指摘できないから,Aが年齢及び喫煙量の点で肺癌発症のハイリスクグループに属すること(甲2,3号証,乙9号証)を考慮しても,本件初診時の段階で,B医師がAに対し直ちに肺癌の発症を疑って,肺癌の検査を開始したり,専門病院の受診を勧告すべき義務まで負うものと認めることはできない。」

判例のポイント

 胃潰瘍と肺癌の区別が困難な事案において、レントゲン検査で肺癌を明確に疑わせる異常影を指摘できない場合の、医師の肺癌を見落とした過失を否定した事案。
 医師は少なくともレントゲン検査までしている。