今回は、クモ膜化出血について書いていきます。くも膜下出血とは、脳表面の脳血管病変の破綻によってくも膜下腔への出血が生じた病変のことです。くも膜下出血は、40歳から60歳で発生しやすく、女性の方がなりやすい病気です。

 クモ膜化出血の原疾患としては、脳動脈瘤が80%以上で、次に脳動脈奇形です。特に、脳動脈瘤が原因の場合は、非常に急速かつ重篤な経過をたどることが多く、死亡や重度の後遺症を残すことが多いです。具体的には、死亡するもの、重篤な後遺症を残すもの、社会復帰できるものの割合は3分の1ずつです。したがって、一度クモ膜化出血になると、社会復帰できる可能性が33%ぐらいということになります。したがって、くも膜下出血にならないように予防することが重要となります。

 クモ膜化出血の予防としては、原因である脳動脈瘤の破裂を防ぐようにしなければなりません。脳動脈瘤とは、脳動脈(特に分岐部)にできる血管のふくらみ、脳動脈の中膜が先天的に欠損しているところに、高血圧や動脈硬化などの後天的な要因が加わって、形成されます。そして、無症候性のことが多いですが、大きな動脈瘤になると神経圧迫による症状を呈することもあります(症候性)。このように、動脈瘤は無症候性の段階では、症状がでないことから、概ね保存的治療(経過観察、血圧コントロール、生活習慣改善)をすることになります。他方で、症候性の場合には、手術(動脈瘤頸部クリッピング術、コイル官塞栓術)をすることになります。ただ、動脈瘤の治療だけでなく、その後の破裂(クモ膜化出血)の予防という観点から、無症候性の場合でも、動脈瘤が5ミリ以上であれば、または動脈瘤の破裂の危険性が高い場合(脳底動脈先端部、全交通動脈、内頸―後交通動脈分岐部、D/N比が大きいもの、不整形、blebあり)には手術する場合があります。

 他方で、開頭動脈瘤クリッピング術等の手術は、合併症(頭蓋内出血、脳梗塞、手術による脳損傷)のリスクも高いことから、予防のために手術をするか、経過観察するか医師として重要な判断がせまられます。また、患者としても、症状の出ていない段階で合併症のリスクを伴う手術をするか重要な判断をしなければなりません。この前提として、医師には、説明義務が生じます。

 具体的には、

「医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては,診療契約に基づき,特別の事情のない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状),実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務があり,また,医療水準として確立した療法(術式)が複数存在する場合には,患者がそのいずれを選択するかにつき熟慮の上判断することができるような仕方で,それぞれの療法(術式)の違いや利害得失を分かりやすく説明することが求められると解される(最高裁平成10年(オ)第576号同13年11月27日第三小法廷判決・民集55巻6号1154頁参照)。加えて,・・・本件手術は,原告において左側動脈瘤の生涯破裂率や本件左側手術及び一期的手術に伴う後遺症出現の可能性をも正確に理解した上で同手術をすることについて強い希望がある場合に限り,その適応があるというべきであるものである。したがって,被告担当医師らは,本件手術に関する説明にあたり,本件手術の必要性,有効性及び安全性(左側動脈瘤の生涯破裂率や本件左側手術及び一期的手術に伴う後遺症出現の可能性を含む。)について,原告に対して詳細かつ丁寧に説明すべき義務があったというべきである。」(岐阜地方裁判所平成21年11月4日)

のような裁判例があります。このように、開頭動脈瘤クリッピング術の場合には、手術の必要性、有効性及び安全性(左側動脈瘤の生涯破裂率や本件左側手術及び一期的手術に伴う後遺症出現の可能性を含む。)について、詳細かつ丁寧に説明すべき義務があります。そして、前記裁判例では、動脈瘤の生涯破裂率、後遺症出現の可能性につき具体的な数字を示すことまで要求され、それが患者に正確に理解できる程度の説明がされているかを検討しています。

 したがって、開頭動脈瘤クリッピング手術で合併症が発生した場合に、手技ミスで問えない場合でも、説明義務違反について問題視することは可能です。

 手術についての説明の内容は、手術をするかしないかの判断をする上でも重要ですので、しっかりメモしていればよいと考えます。また、万一不幸な事が起きた時にも、手術前にどのような説明がされていたかをメモしていれば、何がどのように説明されたか事後的に判断することができることになります。したがって、手術説明の際に、録音やメモをとるべきというのが弁護士としてのアドバイスです。