1 直腸癌手術とQOL

 一口に大腸癌と言っても、上行結腸癌、S状結腸癌、直腸癌など、その部位によって様々な癌がありますが、直腸癌、特に下部直腸癌の手術は難しく、また術後に色々と機能障害が出てくるようです。

 具体的に、よく出現する代表的な機能障害は、排便障害、排尿障害、男性の場合はこれに加えて、勃起障害、射精障害です。
 大腸肛門病センター高野病院の山田一隆医師によると、直腸癌手術後に機能障害を抱えた96名の患者さんに対するQOL(quality of life)アンケートを実施したところ、次のような回答がかえってきたそうです。

 各機能障害に対する不満

 勃起障害 85%
 人工肛門 72%
 排尿障害 71%
 排便障害 65%
 射精障害 42%
 (山田一隆編著「大腸癌の予防と最新治療」医歯薬出版株式会社より抜粋)

 このあたりの情報は、多少説明義務との関係で問題になり得ますよね。ただ、「勃起障害になるくらいなら、死んだ方がマシだ!」なんて言う人はあまりいないと思いますから、直ちに法的責任につながるかどうかは分かりませんけど、トラブル回避のためには必要な情報提供でしょうね。

 さて、癌を摘出して無事に救命できたとしても、その後のQOLは患者さんたちにとって重大関心事であることは疑う余地がありません。
 そして、医療の発展もめざましく、このような機能障害がなるべく出ないような手術方法(絶対に出ないわけではありません)が現実にあります。
 もっとも、そのような手術は全ての病院でできるとは限らないので、この点も説明義務との関係で問題になり得ると思います(こちらの問題は法的問題に発展する可能性がけっこうあると思います)。

2 自律神経温存手術

 最近の医学では、腹部にある交感神経系の自律神経や骨盤内の骨盤神経叢を切断してしまうと、勃起障害や射精障害などといった性機能障害が出現することが分かっているそうです。

 そこで、今日では、これらの自律神経を温存する手術が開発されています。

 もっとも、温存できる範囲によって、①全温存、②片側温存、③片側部分温存の3種類があり、当然ですが、機能障害を最も回避できる可能性が高いのは全温存で、片側温存、片側部分温存の順で、機能障害の発生リスクは高まります。

 ちなみに、先の山田一隆医師によると、次のようなデータが得られたそうです。

全温存片側温存片側部分温存
勃起障害6%18%37%
射精障害24%47%100%

 これを見ると、射精障害はけっこう出現しやすいようですね。特に、片側部分温存では100%ですから、現状ではこの機能障害を避けられないようです。

 なお、射精障害で多いのはいわゆる逆行性射精といって、精液が外尿道口に放出されずに膀胱に逆流してしまうという機能障害だそうです。

3 括約筋温存手術

 括約筋温存手術とは、肛門括約筋を温存して人工肛門の創設を防ぐ手術方法です。

 直腸は、上部直腸、中部直腸、下部直腸、肛門管からなり、特に下部直腸と肛門管は骨盤内にあるため手術が難しくなるそうです。
 上部直腸と中部直腸に関しては、多くの医療機関でこの括約筋温存手術を行うのが一般的になっているそうですが、下部直腸と肛門管に関しては、一部の専門施設を除いて、今でも人工肛門をつくる直腸切断術が実施されているとか(やっぱり専門施設で手術してもらうことが重要ですね)。

 括約筋温存手術には、①高位前方切除術、②低位前方切除術、③超低位前方切除術などがありますが、特に先端医療として優れているのは、④内肛門括約筋切除術だそうです。
 これは、肛門括約筋のうち、内肛門括約筋を全て切除して、外肛門括約筋のみ温存し、排便機能を保持させるというものです。
 この手術方法は、下部直腸癌だけではなく、肛門管癌の一部にも適応でき、画期的な手術方法とされています。
 但し、現時点では限定された専門的施設だけで行われており、一般の医療機関に広く導入されているわけではないことに注意してください。