Ⅰ 用語等

乳癌
乳管や小葉上皮から発生する悪性腫瘍
乳管起源のもの=乳管癌
小葉上皮起源のもの=小葉癌
女性の癌で罹患率1位 死亡率5位
40~60歳代の閉経期前後の女性に多い

*リスクファクター
肥満、初経が早い、初産が30代以上、出産経験がない・少ない、家族に乳がん患者

Ⅱ 診断

1 視診・触診

①視診

乳頭陥凹、乳頭分泌、乳頭・乳輪びらん、皮膚の橙皮様変化、陥凹、えくぼ徴候などがみられる

②触診

坐位、仰臥位の両方
ⅰ 腫瘤の触診 ⅱ 腋窩リンパ節の触診

*えくぼ徴候:腫瘤の触れた部位の皮膚をつまんで歪みをつくった時に中央が陥凹
乳癌の約50~60%にみられる

2 マンモグラフィー・超音波検査

①マンモグラフィー

万能ではない
乳腺は白く、脂肪は黒く映る
乳腺は40歳代から委縮
 →40歳代以降は白少ない⇒発見しやすい
 →30歳代までは白く映る⇒発見しにくい
 (超音波メイン、マンモグラフィーサブ)

②超音波検査

しこりの中身がわかり30歳代以下で有効

⇒1と2で腫瘤の位置・大きさ・数

3 細胞診 

⇒良性と悪性の鑑別

4 組織診

⇒良性と悪性の鑑別
 性格
 悪性度
 分類(浸潤性か非浸潤性か)

⇒⇒⇒ 診断

Ⅲ 治療方針

1 CT・MRI

⇒腫瘍の広がり、正確な位置・数

2 センチネルリンパ節生検

⇒リンパ節転移の有無

⇒⇒⇒ 治療方針決定

Ⅳ 乳癌の治療

1 局所療法(発生部位やその周囲を治療)

 手術、放射線療法

2 全身療法(転移病巣を治療)

 化学療法、ホルモン療法、分子標的治療薬

臨床では療法組み合わせた集学的治療
治療法の選択は、患者の状態、リスクファクター、病期による
予後を左右するのは遠隔臓器転移
よって最も有効なのは全身療法

Ⅴ 転移

血行性に微小転移を起こしていた場合、センチネルリンパ節生検が陰性でも遠隔転移起こすこと有
遠隔転移の治療
完治難しい
治癒目指すより症状緩和やQOL改善、延命に重点
原則、ホルモン剤や分子標的治療薬、抗癌剤による薬物療法
骨・脳への転移には放射線療法も有効

Ⅵ 裁判例 <東京高判昭和58年6月15日>

1 過失

 乳房に発生した腫瘤(しこり)は、乳がんの可能性があるので、その原因を可及的速やかに究明し、適切な医療措置を講ずることが必要不可欠であるところ、それが乳がんであるかどうかを診断する方法としては、視診、触診のほか、X線撮影や超音波を用いる方法、或いは細胞診などがある

 腫瘤の組織検査をするのが最も確実な診断法であつて、これらのことがらは当時の医療水準上、医師としての常識の範囲に属するものであつたことが明らか

 乳房に腫瘤を発見した被控訴人はまずその腫瘤が乳がんによるものでないかどうかを、自ら直ちに右のような検査方法で究明し、或いは美幸に対し、そのような検査のため他の専門の医療機関で受診するよう説明・指導するなどの診療契約上の注意義務があつた

 被控訴人は、診療契約上の債務不履行責任を免れない

2 因果関係

 腫瘤を発見した当時、適切な説明をしたなら、その検査に応じたであろうこと、そのころ、腫瘤が乳がんによるものであることが容易に判明したであろうことは推認できる

 しかし、妊娠期に生じた乳がんは進行が速やかで再発率が高く、リンパ節転移の度も高く、予後が悪いといわれていることが認められるので、このことを考慮すると、患者の腫瘤が乳がんであると確定的に診断され、当時の医療水準に照らし適正と認められる処置がとられた場合であつても、実際の死期よりもさらに相当期間生命を保ち得たものとは推認できるものの、その乳がんが他に転移することなく完治し、通常人と同様の労働能力を保有しつつ平均的余命を全うし得たものとは認めがたい

 そうすると債務不履行と美幸の死亡、及びこれにより生じた損害との間の相当因果関係は認めがたいが、相当期間の命をはかり得なかつたこととの因果関係は認める

 当時の医療水準に即応した適切な処置を受けつつ、できるかぎり生命を維持することも法的保護に値する利益だから、延命利益の侵害により生じた損害の賠償責任はある

弁護士 池田実佐子