1 用語等

「眉間ゴアテックス」

眉間にプロテーゼを挿入し眉間を高くする
「プロテーゼ」=人口軟骨
「ゴアテックス」
 =アメリカのLゴア&アソシエイツ社が製造販売する防水透湿性素材の商標名
医療分野では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を指す
ゴアテックスチューブなどの移植は、挿入部位が浅いと不自然な硬化や凹凸がでやすいなどの欠点。特に異物は、長期的には感染、硬化・変形、違和感などのリスクが懸念されるのでできるだけ使用しない方が無難。とされている。

「シリコンプロテーゼ」

「プロテーゼ法」とは、人口軟骨(プロテーゼ、シリコンインプラント)を使用して鼻を高くする方法。人口軟骨法、インプラント法とも呼ばれる。

・長所
ドナー不要、細工容易、抜去容易、滅菌容易

・短所
適正な大きさや厚さでないと露出、感染しやすい、L字使うと表情でにくい、患者にとって常に異物、15年以上入れていると石灰沈着が起こる
⇒長期のフォロー要

・本件に関係する手技
挿入後、上下左右にずれていないか確認して縫合
術後はインプラントをスポンジで外固定

・本件に関係する合併症
合併症の中に、偏位がある
偏位の主な原因は、挿入時中央線を確かめなかったり、骨膜ポケットに左右差があることによる。この点に細心の注意が必要とされている。
患者が動かしたり、最初から正しい位置に挿入されなかったことによるともされている。

「鼻中隔延長術」

鼻中隔=鼻腔を左右に分ける壁
鼻中隔軟骨に患者の軟骨を継ぎ足して鼻を長くする手術

・術後管理(シリコンインプラントと耳介軟骨移植併用法を参考)
テープ固定を1週間、1カ月の患部安静、最低1カ月は術部安静要

・本件に関係する合併症
移植軟骨の偏位

*クローズ法(鼻の穴の中を切開)とオープン法(鼻柱を切開)

2 責任

(1)鼻筋について

・手技上のミス  偏位の主な原因は、挿入時中央線を確かめなかったり、骨膜ポケットに左右差があることによる。この点に細心の注意が必要。挿入後、上下左右にずれていないか確認して縫合、術後はインプラントをスポンジで外固定とされている。
 なお、ズレが術後に生じたのなら、反論として「患者が動かした」可能性を言われるおそれ。

・他に、ゴアテックスの使用は適切であったか。
ゴアテックスチューブなどの移植は、挿入部位が浅いと不自然な硬化や凹凸がでやすいとされているところ、挿入部位の鼻筋は浅い。
これにより●●ができているとすると、ゴアテックスの使用についての誤りも過失としうる?

・説明義務

(2)鼻先について

ア 術後の左右差等について、下記裁判例は、
人の顔がもともと完全に左右対称でないことから、「(形態の変化や左右差が)客観的にみて,社会通念上,人の容貌として不自然で,診療契約上の債務不履行を構成すると評価すべき程」のものか否かを判断している。
⇒本件では、これを満たす程度の変化と差が生じているか。

イ 責任が生じる程度の変化や差が生じているとして、過失は
・手技上のミス
文献(鼻尖部)によると
 鼻の美容手術は手術が終了しても目的の半分を達成したに過ぎない。固定によって形態が決定されることも多く、手術と同じくらい固定は重要で、結果を左右する。患者にも固定の意義を十分に理解させて協力してもらわなければ手術が終了したとはいえない。基本的なテーピングは鼻尖を残し側面を圧迫。目的とする形態をやや過矯正気味に固定するためにリテイナー(=保定装置)、チューブなども適宜加工する。
 また、対称的な固定が肝要。テープは弾性を有さない材質のものがよく、紙、綿、シルクなど患者に分けて使い分けている。

⇒上記固定が適切に行われたか。

・他に術法の選択の適否?
⇒本件クローズ法?
 ●●になるが、●●等から適していたか。
・説明義務違反

4 裁判例

●一般論 東京地判平成15・7・30

 美容整形の処置を実施する場合、その目的は専ら患者の主観的願望を満たすところにあると言うべきであるから、美容整形上の処置を実施しようとする医師は、そのような患者の主観的願望を満たすために、細心の注意を払うべき義務がある。

●鼻孔の左右差等が生じた事案 名古屋地判平成19・11・28

 原告は,本件各美容整形手術により,こめかみの左右不均衡,鼻孔の左右不均衡及び不整,重瞼ライン及び開瞼の左右不均衡という意図せぬ結果が発生し,また,下顎角の左右不均衡の改善という意図した結果が達成されなかったと主張。

 人の顔面は,骨格等の生体組織を含め,元来幾何学的に完全に左右対称ではなく,程度の差こそあれ非対称的な部分の存するのが通常である上,美容整形手術は,既存の生体組織を基礎として整容を目的として行われるものであるから,仮に本件各美容整形手術により幾何学的な意味で左右に非対称な部分が発生し又はなお残存したとしても,これをもって直ちに診療契約上の債務不履行があると断定することはできないと解される。

 そして,原告の提出する上記写真からは,客観的にみて,社会通念上,上記撮影当時の原告に,原告が気に病むほど人の容貌として不自然で,診療契約上の債務不履行を構成すると評価すべき程の,こめかみの左右不均衡,重瞼ライン及び開瞼の左右不均衡又は下顎角の左右不均衡があると認めることはできない。特に,下顎角について,本件診療記録には,原告に対する下顎角形成術が行われる前に撮影された,原告の容貌の写真が添付されており,原告は被告クリニックで同手術を受ける前から下顎骨及び頬骨等の骨格にかなりの左右の不均衡があったことが認められるところ,この写真上の下顎角の状態と,上記平成17年10月28日撮影の写真上のそれとを比較すると,前者の下顎角の状態は,後者のそれに比して,左右の不均衡が一定程度改善されているということができる(なお,原告は,b病院において,医師から,「重瞼ラインの乱れと左右開瞼のアンバランスの状態があり,精神的に悩みのあることは十分考えられる。」旨診断されていることが認められるが,この事実のみでは,上記乱れ又はアンバランスの程度が客観的に明らかでないから,それが人の容貌として不自然で診療契約上の債務不履行を構成すると評価すべき程のものであると認めることは困難)。

 一方で,本件診療記録には,原告に対する隆鼻術の行われた平成7年1月20日当時に撮影された,原告の鼻孔等の写真が添付されていること,この写真上の鼻孔の状態と,上記平成17年10月28日撮影の写真上の鼻孔の状態とを比較すると,確かに,後者の鼻孔の状態は,前者のそれに比して,鼻孔の形態が変化してその左右差が多少大きくなっていることが認められる。しかし,上記鼻孔の形態の変化ないし左右差は,客観的にみて,社会通念上,人の容貌として不自然で,診療契約上の債務不履行を構成すると評価すべき程のものであるとまでは認めがたい。

 原告は,被告クリニックにおいて,こめかみ形成術,隆鼻術,重瞼術及び下顎角形成術を複数回受けていることが認められるので,原告が初回の手術結果に主観的不満を抱いていたであろうことは推認しうるが,そのような主観的不満のみから,これらの手術結果に診療契約上の債務不履行が客観的にあると即断することもできない。

弁護士 池田実佐子