(1)薬の特性と医師の説明義務

 薬剤は、医師の手の離れたところで製造されるものであることなどの事情から、医師が正しく処方・投薬したにも関わらず患者に思わぬ損害が生じたとしても、医師の責任を追及することは困難である。

 しかし、正しく投薬されたか否かを判定するため、判例・裁判例は医師が患者に薬剤を投薬するにあたり、投薬前、投薬時、投薬後の各段階において医師の注意義務を肯定し、かかる義務に違反した場合には損害賠償責任を認めている。

 投薬も診療行為の一部であることを考えると、医師にこのような責任が課されることは当然であるといえる。

(2)薬剤の投薬時における注意義務についての裁判例

① 大阪地判平成14年2月8日判タ1111号163頁

 「医師は、患者の治療のため薬剤を処方するに当たっては、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、処方する薬剤の内容、当該薬剤の副作用などについて説明すべき義務があるというべきである。」

② 高松高判平成8年2月27日判タ908号232頁

● 投薬前の説明義務について

 「副作用の発生率が極めて低い場合であっても、その副作用が重大な結果を招来する危険性がある以上は、投薬の必要性とともに副作用のもたらす危険性を予め患者に説明し、副作用の発症の可能性があっても、その危険性よりも投薬する必要性の方が高いことを説明して理解と納得を得ることが、患者の自己決定権に由来する説明義務の内容であると解される。」

● 情報提供義務について

 「患者の退院に際しては、医師の観察が及ばないところで服薬することになるのであるから、その副用の結果が重大であれば、発症の可能性が極めて少ない場合であっても、もし副作用が生じたときには早期に治療することによって重大な結果を未然に防ぐことができるように、服薬上の留意点を具体的に指導すべき義務があるといわなくてはならない。
 即ち、投薬による副作用の重大な結果を回避するために、服薬中どのような場合に医師の診察を受けるべきか患者自身で判断できるように、具体的に情報を提供し、説明指導すべきである。」

(3)薬剤投薬時の注意義務についての判例

平成8年1月23日判時1571号57頁

 「医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文章に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである。」

(4)投薬後の注意義務

① 最判平成14年11月8日判タ1809号30頁

 「本件においては,3月20日に薬剤の副作用と疑われる発しん等の過敏症状が生じていることを認めたのであるから,テグレトールによる薬しんのみならず本件薬剤による副作用も疑い,その投薬の中止を検討すべき義務があった。すなわち,過敏症状の発生から直ちに本件症候群の発症や失明の結果まで予見することが可能であったということはできないとしても,当時の医学的知見において,過敏症状が本件添付文書の(2)に記載された本件症候群へ移行することが予想し得たものとすれば,本件医師らは,過敏症状の発生を認めたのであるから,十分な経過観察を行い,過敏症状又は皮膚症状の軽快が認められないときは,本件薬剤の投与を中止して経過を観察するなど,本件症候群の発生を予見,回避すべき義務を負っていたものといわなければならない。」

② 最判平成9年2月25日判時1598号70頁

 「開業医が本症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者について薬疹の可能性のある発疹を認めた場合においては、自院又は他の診療機関において患者が必要な検査、治療を速やかに受けることができるように相応の配慮をすべき義務があるというべき(であり)」。

弁護士 藤田 大輔