1 悪性リンパ腫

 今回は、最近うちの事務所でやった、癌の見落としと悪性リンパ腫の事例を何回かに分けて取り上げたいと思います。訴訟自体は、原告(患者側)の勝訴和解なので、判決は出ていません(実際に訴訟を担当したのは、うちの佐久間弁護士です)。

 まず、事案の中身に入る前に、悪性リンパ腫に対して、概説したいと思います。

 悪性リンパ腫は、リンパ節、リンパ管などのリンパ系組織から発生する悪性腫瘍です。

 悪性リンパ腫には、大きく分けて「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」の2種類があり、ホジキンリンパ腫は日本では悪性リンパ腫の約10%程度にすぎず、約90%は非ホジキンリンパ腫だそうです。
 今回の症例も非ホジキンリンパ腫なので、こちらをメインに解説します。

 非ホジキンリンパ腫は、それが由来する細胞と進行速度(悪性度)で分類することができます。

 まず、由来する細胞による分類ですと、B細胞性、T細胞性、NK細胞性に分けることができます。これらの細胞は、いずれも免疫系を司る細胞です。

 進行速度による分類では、低悪性度、中悪性度、高悪性度の3段階で分けられ、低悪性度は概ね年単位で進行し、中悪性度は月単位、高悪性度は週単位で進行するとされています。

 ただ、この悪性度と進行速度は、癌の種類によって異なるので、癌の種類が分かれば進行速度と悪性度も分かるようです。
 例えば、濾胞性リンパ腫やMALTリンパ腫などは低悪性度、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫などは中悪性度、リンパ芽球性リンパ腫、バーキットリンパ腫などは高悪性度に該当します。

2 悪性リンパ腫と標準治療

 今回の症例は、病理組織検査の結果、「びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫」(Diffuse large B cell lymphnoma、DLBCL)であることが判明しました。
 そうすると、先の悪性度分類によると中悪性度に該当し、進行速度も概ね月単位であることが予想されます。

 「びまん性」とは、病変を限定できずに広範囲に及ぶ様子を意味します(これに対する概念は「限局性」です)。びまん性は、ほかの癌でもよく出てくる概念なので覚えておいてください。

 悪性リンパ腫に対する標準治療は、化学療法、放射線療法、生物学的製剤の3つで、通常他の癌で適応の有無が問題となる腫瘍の切除手術は悪性リンパ腫では標準治療とはされていません。あくまでも先の3つが標準治療で、腫瘍が切除されるのは、①組織の確定診断を行うために必要である場合や、②腫瘍が限局した範囲にしか存在せず、完全切除が可能な場合に限って実地するのが原則になっています。
 もっとも、このいずれにも該当せず、完全切除が不可能な場合でも実施するケースがありますが(非治癒切除と言います)、化学療法や放射線治療による合併症を防止するためという補助的範囲で行われるようです。
 通常、ほかの癌ですと、手術適応になるかどうかがその予後にも影響し、適応がないと余命宣告を受けることが多いと思いますが、悪性リンパ腫ではそのようなことはなく、手術適応がないからといって直ちに予後不良で助からないと考える必要はないようです。

 さて、上記3つの標準治療のうち、DLBCLに対する最も標準的な治療法は、複数の抗癌剤を組み合わせて投与する化学療法であり、CHOP(シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン)療法と呼ばれています。

 また、現在では、このCHOP療法に生物学的製剤であるリツキサンを併用した「R-CHOP療法」が、進行期のDLBCLの標準的化学療法となっているそうです。

 ところで、上記の化学療法を中心とする標準治療の効果ですが、Ann Arbor分類のⅢ期、Ⅳ期といった進行期であっても、半数以上の人の治療が期待できるようです。
 また、Ann Arbor分類のⅡ期、Ⅲ期で切除手術しか実施しなかった例で、術後2年1ヶ月で死亡したケース、3ヶ月で死亡したケースがあるのに対し、化学療法を用いた4例中3例が8年後、9年後、20年後の現在も生存中であったという研究報告もあります。
 さらに、15㎝大の腸間膜悪性リンパ腫のケースで、非治癒切除で腫瘍を摘出したのですが、遺残腫瘍増大後、CHOP療法を実施したところ、術後6年経過した現在も生存中であるという報告もあります。

 いずれにしても、他の癌に比べると、化学療法の効果も期待でき、予後もいいのかもしれません。