前回の記事はこちら:癌もどき➀

判例

①について

事案の概要

・胃癌と診断されて全摘手術を受けたが、後に胃癌でないことが判明した。

・胃前庭部粘膜の不整の疑い

上部消化検査

胃体中部小彎に台上拳上を呈する腫瘍病変の確認腫瘍の肉眼的形態について2型(潰瘍限局型)

組織生検(同病変の2か所及び胃体下部以降萎縮茎近傍のびらん部1か所)

「壊死物に接して、比較的小型の核を有する接着性の乏しい異型細胞のシート状の増生を認める低分化腺癌」の所見
⇒グループV(癌と確実に診断される病変)と診断

CT検査

胃に原発巣確認できず、背丈の低い隆起性病変の存在 

下部消化管内視鏡検査

下部消化管に局在病変は認められない

腹部超音波検査

肝臓の血管腫の疑い

X線検査

特記すべき所見なし

上部消化管内視鏡検査

胃体中部小彎に台上拳上を呈する腫瘍病変が消失
同部位に発赤した不整な粗造粘膜病変確認
⇒癌が粘膜下に浸潤したと考えた

・原告の胃の病気が、内視鏡検査に一カ月で、通常の胃癌では見られないような形態変化をきたしているのであるから、病理診断の結果を絶対視することなく、外科的手術に先立ち、病理医と相談して再検討すべき注意義務を負う。

②について

事案の概要

・肺癌でないのに、開胸手術によって肺の一部等を切除され、その後呼吸不全になった事案。

CT検査

「右肺S6区域の上よりの部分に12ミリメートル×10ミリメートル程の結節があり,その周りにけばだったような影を伴っている。その一部は後ろ側の胸膜にまで達し,軽い胸膜陥没を呈しているように見える。大葉間裂がこの結節に向かって引きつられているような所見も認められる。」
⇒肺癌の可能性が高い

骨シンチ検査

積極的な移転を疑わせる所見はなし

負荷心電図検査

腫癌についてははっきりしない

胸部単純レントゲン検査

右S6にある結節影は明らかでない

・検査義務違反
①本件CT画像で本件所見が得られているところ,本件所見は悪性腫瘍によく見られる所見であって,本件腫瘤が悪性腫瘍であることを強く疑わせるものであったこと②本件腫瘤が悪性腫瘍であった場合,他の部位に転移する前であれば切除することにより治癒治療の可能性があるが,他の部位に転移した後では,手遅れとなる危険性が高いため,本件腫瘤が悪性腫瘍か否かの診断を早期に行う必要があったこと③胸部単純レントゲン検査では本件腫瘤を確認できていないが,本件腫瘤の影が,正面から撮影した場合,心臓陰影と重なり,また,側面から撮影した場合も,脊椎の椎体の影と重なることから,同検査で確認することができないことによるもので,胸部単純レントゲン検査の結果を,悪性腫瘍か否かの判断の基礎とすることはできないこと④血液検査による腫瘍マーカーの値については,悪性腫瘍であっても,高い数値が出ない例も少なくないこと⑤本件所見は悪性腫瘍によく見られる所見であったため,本件腫瘤が悪性腫瘍であるか否かを早期に診断する必要があったが,本件各検査によっては,本件腫瘤が悪性腫瘍か否かの確定的な診断ができたとは限らない上,侵襲的方法による検査については,合併症の危険もあったこと,⑥これに対して,開胸肺生検(本件手術)によれば,直視によって適切な生検部を選択でき,悪性腫瘍か否かの確定的な診断に必要な資料(検体)を得ることができ,しかも,悪性腫瘍と診断されれば,そのまま治癒手術に移ることができることの事実が認められる。

 したがって,本件腫瘤については早期に確定診断をすることが必要であり,そのためには,早期に開胸肺生検(本件手術)を実施し,それによって悪性腫瘍と診断されれば,そのまま治癒手術に移ることが最も適切な方法であると考えた被告担当医師らの判断が,誤りであった,あるいは不適切なものであったということはできない。

③について

事案の概要

・乳癌と誤診され、乳房温存治療法に受けるになった事案。

・過去に右乳腺腫瘍で生検し、良性と診断

診察

硬い腫癌が触知⇒癌も否定できない

乳腺エコー

均一的な腫癌陰影が認められるが、悪性としての典型的な石灰画像は認められず。
⇒医師:線維腺腫を疑った

穿刺吸引細胞診

疑陽性

専門医に確認

癌との診断

・乳癌手術は,体幹表面にあって女性を象徴する乳房に対する手術であり,手術によって乳房の一部又は全部を失わせることは,患者に対し,身体的障害のみならず,外観上の変貌による精神面及び心理面への著しい影響をもたらすものであって,患者自身の生き方や生活の質にもかかわるものであるから,医師は,当該患者に対して乳癌手術を行う必要があるか否かを判断する際の前提となる,当該乳腺腫瘍が良性か悪性かの鑑別を極めて慎重に行うべき注意義務を負うというべきである。

 乳癌の診断に極めて有用とされている乳房撮影では典型的な悪性所見はなく,乳腺エコー検査でも積極的に悪性を疑わせる所見は認められなかったこと,B医師は,上記の所見から,線維腺腫を相当強く疑い,癌である可能性は低いと考えていたものであり,C教授の癌との診断に対して予想外に感じたこと,B医師としても細胞診における誤診の可能性については認識していたこと,本件判定医は疑陽性と診断しながらも良性の可能性がより高いと考えていたのであり,B医師も本件判定医の上記判断を認識し得たこととの事情が認められる。

 そして,上記認定の事情に,生検は30分程度で実施し得るものであって,患者に大きな負担をかけるものではないこと,乳房温存療法であっても乳房に対する手術であることに変わりはなく,乳房の一部切除により温存乳房の変形,偏位等を来すことがあり得ること,被告病院では術中迅速組織検査を実施することができないところ,D助教授は「被告病院レベルの病院では,術中迅速組織検査を実施することが容易でないため,線維腺腫を強く疑う場合には生検を行うことが望ましく,本件についても線維腺腫が疑われたから外来で生検を行うことが望ましかった。」旨述べていることなどを併せ考慮すれば,B医師には,C教授の診断をうのみにすることなく,それが誤診である可能性のあることを疑い,より慎重に良性か悪性かを鑑別するために生検を行うべき注意義務があったと認めるのが相当である。