1 フォルクマン拘縮について

 そもそも、フォルクマン拘縮と言う言葉を聞いた事がありますか。大半の方は、ないと答えるでしょう。

 名古屋地判平成15年9月25日によると、フォルクマン拘縮とは、「上腕、肘若しくは前腕の骨折又は挫傷のように主に非開放性の外傷に続発する血行障害によって前腕屈筋群の急激な壊死変性が起きた後遺障害」、とされており、「フォルクマン拘縮における阻血性壊死は、受傷直後急激に発生し、疼痛、腫脹、橈骨動脈の脈拍消失、手指のチアノーゼ、知覚鈍麻過敏などの特有の前駆症状を示す。また、指は屈曲位で自動運動は不可能となり、他動的に指を屈伸しようとすると疼痛は著明に増強する。これを放置すると筋肉の非可逆性変性による拘縮及び神経線維の変性による麻痺が合併し、フォルクマン拘縮が発生するが、同拘縮が完成すると治療は極めて困難で重大な機能障害を残す」、とされています。

 簡単に言えば、フォルクマン拘縮とは、骨折等の治療中に生じた血行障害によって、手や腕等に麻痺が残る後遺障害です。

2 過失について

 フォルクマン拘縮の事案では、診療上の過失を主張するにあたって、①フォルクマン拘縮の発症の原因となる阻血を認識できたか否か、②阻血を発症した後の治療が適切であったか否か、が主要な争点となります。

3 ①の点について

 東京地判平成元年11月28日によると、フォルクマン拘縮の予防については、「基本的には、フォルクマン拘縮症の原因となる阻血につき、その症状が現れているかどうかに注意してこれを発見し、阻血を解消する処置をとるべきである」、とされています。

 フォルクマン拘縮は、突然発症する後遺障害ではありますが、手の麻痺などの重篤な結果を伴うことから、早期治療の必要性は極めて高いです。上記東京地判平成元年11月28日の事案によると、阻血が起こった時には、「(1)激しい痛み。(2)著明な腫脹。強いと、水疱が発生したり、脈拍に触れなくなる。(3)脈拍喪失。(4)知覚の異常、シビレ感など。(5)筋麻痺。これがあると、指を自分で動かせなくなり、他人が動かすと非常に痛みを訴える。」、とされています。

 従って、患者側としては治療中に、「痛み、腫脹、脈拍喪失、しびれ、筋麻痺」、などの症状を呈していたこと、及びそのことを病院側が認識していたことを、過失の認定に当たり主張する事になります。

4 ②の点について

 阻血が発生したとしても、早い段階で処置を施せば、フォルクマン拘縮を防止することは十分可能です。この点、名古屋地判平成15年9月25日によると、

「フォルクマン拘縮の発生防止の第1段階として、外固定などの外部からの圧迫要素をすべて除去する、垂直牽引により愛護的に血行改善を図るなどの方法があるが、これらによっても症状改善がなく、コンパートメントの内圧が高い場合には筋膜切開術、手根管開放術などを行い、動脈の損傷がある場合には修復を行う。フォルクマン拘縮が完成した場合は、機能再建術の適応となり、軽症例(病変が深層筋の一部に限局するもの)には壊死部の部分切除等、中等症例(深層筋の完全変性と病変が浅層筋の一部にも及ぶもの)には神経剥離術、腱移行術等、重症例(深層筋及び浅層筋のいずれも完全変性したもの)には腱移行術、筋肉移植術、神経移植術などが行われる」

 とされており、いかにフォルクマン拘縮が早期治療の必要性が高い疾患であるかが分かります。

 すなわち、早い段階で阻血に気付いたならば、「固定をゆるめる、患部を上にあげる、暖かい食塩水を与える、マッサージをする」、等の処置を施すことでフォルクマン拘縮の予防が可能であるとされています。これに対し、処置が遅れるほどに施すべき処置は、「筋膜切開術、手根管開放術」→「壊死部の部分切除等」→「神経剥離術、腱移行術等」→「腱移行術、筋肉移植術、神経移植術」、と身体への負担が大きいものへと飛躍的に変化してしまうのです。

5 後遺障害の重大性

 東京地判平成元年11月28日の事案では、患者の左腕には重篤な後遺障害が残り、「握力が、右手二五キログラムに比べて左手は三キログラムである。指と他の指との対立運動は、可能であるが、指腹においては不能であって、例えば茶碗を正常には持てない」、状態に至っています。このような状態となってしまっては、通常の生活を行うことは容易でなく、仮に医療過誤があったならば、正当な損害賠償を得る必要性は極めて高いです。

 半面、手術ミスのような医療ミスとは異なり、フォルクマン拘縮に関する医療ミスでは、「本来なら行うべきであった処置を行わなかった点」が問題となることが多く、一般の方では何が医療ミスの当たるのかを理解する事が容易でありません。

6 結び

 医療過誤訴訟において患者側が勝訴することは簡単ではありません。しかし、フォルクマン拘縮の裁判例では患者側が勝訴した事案はそれなりにあり、上記名古屋地判平成15年9月25日の事案では440万円の損害賠償が、上記東京地判平成元年11月28日の事案では3662万7933円の損害賠償が認められています。

 不幸にもフォルクマン拘縮の後遺障害を負ってしまった場合、早い段階で信頼できる専門家に相談することを心掛けて下さい。