今回は「消滅時効」のテーマで書きます。

 消滅時効とは、一定の期間権利を行使しないと、権利を行使することができなくなるということを示しています。医療過誤に基づく損害賠償請求権の場合にも同じことが言えます。

 医療過誤に基づく損害賠償請求権は、診療契約違反に基づく損害賠償請求権(債務不履行構成)と不法行為に基づく損害賠償請求権(不法行為構成)の二つの構成が考えられます。

 前者の場合には、医療過誤があったときから10年間行使しない場合には消滅します(民法167条1項)。後者の場合は、被害者が損害及び加害者を知ったときから3年間行使しないときとき又は不法行為の時から20年間を経過したときは消滅します(724条)。

 したがって、医療過誤から10年間を経過した場合には、前者の診療契約違反として損害賠償請求をすることはできなくなります。また、医療過誤から、20年が経過した場合には、医療過誤による損害賠償請求をすることはできません。違いが生じるのは、医療過誤から10年以上20年未満の年月が経過している場合です。

 この期間の場合には、不法行為に基づく損害賠償請求ができる場合があります。前述したように、民法724条には「被害者が損害及び加害者を知ったときから3年間行使しないとき」と規定されています。そこで、時効の起算点となる「損害及び加害者を知ったとき」という解釈が問題になります。

 この点、民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」とは、被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に、それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味すると解するのが相当である(最高裁昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)とされ、同条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解するのが相当である(最高裁平成8年(オ)第2607号同14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁参照)。

 医療過誤で問題になるのは、「被害者が損害の発生を現実に認識した時」がどの時点であるかということです。そもそも、患者は病気や何らかの疾患をもって病院に行きます。実は治療の過程でミスが行われていても、気付かないで、数年後に同じ部位を手術したり、レントゲンで撮ったりして初めて損害を認識をすることもあります。

 また、痛み等を感じているものの、医者からそれは診療過程のミスではなく、患者の心因性によるものだと言い続けられ、別の病院に行かないで気付かないことも実際にあります。

 このような場合には、「被害者が損害の発生を現実に認識した時」が治療行為から、数年間経過してからになることもあります。

 したがって、診療行為から10年が経過した場合には、「被害者が損害の発生を現実に認識した時」がいつかを検討することが必要になります。この時効の問題をクリアしないと、医療過誤で損害賠償請求をできなくなるので、この判断は必須になります。