1 用語等

「高分化型脂肪肉腫」(異型脂肪腫ともいう)

脂肪肉腫の一種で最も悪性度が低い

「脂肪肉腫」

脂肪芽細胞(脂肪細胞に分化する細胞)に由来する悪性軟部腫瘍
40歳以降の成人男性に多く、好発部位は下肢
肉眼的には黄色より黄白色、境界は比較的明瞭
①分化型②粘液型③円形細胞型④他形型⑤混合型に分類される
予後は組織像と密接に関係し、分化型は予後良好

「悪性軟部腫瘍」

軟部組織から発生する悪性腫瘍
発生率は悪性腫瘍全体の1%以下
診断や治療に関し問題多い

「腫瘍」

自律性を有する過剰な新生細胞群とそれを支持する組織からなる
新生細胞は原則不可逆性変化
最初は顕微鏡レベルの塊で、進行するに従い肉眼でも認められる塊へと増大
良性腫瘍と悪性腫瘍

「悪性腫瘍」

上皮性悪性腫瘍(=癌)と非上皮性悪性腫瘍(肉腫)
放置すれば宿主が生きている限り増大、ほとんど浸潤性増殖示す

「低悪性度腫瘍」

「悪性度」
悪性腫瘍でもその悪性度は広範囲にわたる 進行度合いにもよる
悪性度が非常に低いと、良性との区別が難しい
肉腫は高悪性度とみなされる傾向にあるが、低悪性もある 高分化型脂肪肉腫が代表例

2 悪性軟部腫瘍の診断 

① 臨床所見

 一般的に大きな(直径5㎝以上)、深い(筋膜より深部)ものは悪性腫瘍を想定

② 画像

 単純X線やMRIなどの画像診断でも正確な診断は難しい

3 画像検査

*単純X線検査

 軟部組織などX線吸収の差の小さいものの分解能は低い

*CT

 これもX線の吸収の差を利用しているので、肺と骨の評価には優れてるが、軟部組織の濃度分解能は劣る。

*MRI 

 軟部組織の解像度が優れていて腫瘍の進展範囲の確認や腫瘍と神経・血管などとの関係を把握する上で有用であるため、手術計画を立てる上では必要な検査とされている
 T1とT2強調画像でともに高信号を呈するのは、高分子型脂肪肉腫など脂肪性腫瘍

③ 生検

 針生検と切開生検

参考:実施された腫瘍マーカーについて

PSA

 前立腺癌の検出と治療効果判定のために用いられる

CEA

 陽性率の高い癌=大腸癌、膵癌、胆道癌、肺癌、胃癌が挙げられており、脂肪肉腫は触れられていない。

4 過失

① 人間ドックでの検査自体における高分化型脂肪肉腫の見落とし?
 軟部組織の分解能が低いX線とCTのみでは脂肪肉腫の発見は難しい。
 仮に脹らみのようなものあっても、脂肪肉腫を含む悪性軟部腫瘍自体も、悪性腫瘍全体の1%以下と発症率の低い傷病で、予見も困難・・・。

② では精密検査等実施指示義務違反?
 同義務を負うのは、下記裁判例によると、異常所見が疑われることが前提。

  

裁判例:人間ドック検診における注意義務

●大腸がんの見落とし事例 東京地判 H4・10・26

 人間ドックは、疾病、特に癌や糖尿病といった成人病の早期発見と、適切な治療を受けさせるためのアドバイスを主たる目的として行われるものであり、受診者も当時の医療水準における適切な診断とアドバイスを期して人間ドック診療契約を締結するから、当時の医療水準に照らし、疾病発見に最もふさわしい検査方法を選択するとともに、疾病の兆候の有無を的確に判断して被験者に告知し、仮に異常かあれば治療方法、生活における注意点等を的確に指導する義務を有する

 また、人間ドックはいわゆる集団検診とは異なり、健康管理に高い関心を有する者が自発的に受診するものであり、受診者は少しでも異常を疑わせる兆候が存在する場合にはその告知を受け、精密検査を受診することを希望しているのが

 通常だから、実施医療機関は、異常を疑わせる兆候があればこれをすべて被験者に告知し、診断が確定できない場合には精密検査あるいは再検査を受けて診断を確定するよう促す高度の注意義務を有する。

●胃癌の見落とし事案

 人間ドックによる健診は、必ずしも具体的な異常の自覚のない者を対象に各種の検査を行うものであって、同健診のみによって診断が確定するというものではなく、これを端緒に更に精密検査をして、診断を確定することが予定されている。

 したがって、医師は、人間ドックの検査結果において、直ちに疾病に繋がる異常所見であるとは断定できないとしても、異常所見が疑われ、精密検査をすれば、それが疾病に繋がる異常所見であるかどうか判断できると考えられる場合、受診者に対してそれを告げて更に精密検査を受診するよう指示すべき注意義務がある

5 補充

診断

 最終的には良・悪性の鑑別、生検が必要

進行

 軟部悪性腫瘍の大多数が数カ月で増大し無痛性
 ただし、高分化型脂肪肉腫では数年にわたりゆっくり増大し続ける

検査

 特徴的な腫瘍マーカーなし
 但し症例によっては血中CRP、LDH、NSEが上昇することがある
 本件、CRP、LDHが前年より上昇している

*他に上昇等しているもの
CPK 高値の場合、悪性腫瘍も疑われる 但し運動により数値上昇しやすい
LDLコレステロール 
50まで=疾患:悪性腫瘍等
140以上=疾患:糖尿病等

治療法のうちの手術療法

 悪性軟部腫瘍に対しては広範切除(=腫瘍反応層より外側での切除)縁以上の切除縁で切除を行うことが肝要
 受診時巨大な腫瘍として発見される頻度が高く、手術のみでの機能温存と局所根治性の両立が困難なケース多い

予後

 悪性軟部腫瘍でも各々の腫瘍によってかなり幅あり

再発率

 半数は局所再発がみられる
 細胞を取り残すと(本件、神経等と接し全部切除困難)再発の原因に
 多臓器浸潤、転移はまれ

弁護士 池田実佐子