ア.ワーファリンについて

(ア)効果・効能、副作用

 ワーファリンとは、血栓塞栓症の治療及び予防に効果・効能がある薬剤であり、血液の凝固を妨げる薬剤である。
 それゆえ、重大な副作用として、粘膜出血、皮下出血等を生じることがある。このような場合には、ワーファリンの減量または休薬、あるいはビタミンK製剤投与、新鮮凍結血漿の輸注等の適切な処置を行うことが必要となる。

(イ)用法・用量

 ワーファリンは患者個々で至適コントロールに必要な用量が異なり、併用薬や食べ物に含まれるビタミンKによって効果が変動しやすい。さらに至適コントロール過少であれば脳梗塞の予防が十分に行えず、過剰であれば脳出血・消化管出血などの合併症のリスクが増えるという安全域の狭い薬剤である。

 そのため、ワーファリンは、血液凝固能検査(プロトロンビン時間及びトロンボテスト)の検査値に基づいて、ワーファリンの投与量を決定し、血液凝固能管理を十分に行いつつ使用する薬剤である。

(ウ)禁忌事項

 同薬剤の添付文書の禁忌事項には、「【禁忌】次の患者には投与しないこと 1.出血している患者(…消化管潰瘍、…喀血…のある患者等) 2.出血する可能性のある患者(…重症糖尿病の患者等)」と注意喚起がなされている。

(エ)重要な基本的注意

 同薬剤の添付文書の重要な基本的注意事項として、「併用注意の薬剤との併用により、本剤の作用が増強し、重篤な出血に至ったとの報告がある。本剤の使用作用増強が伸展あるいは持続しないように十分注意し、適切な治療域への用量調節すること。」「出血等の副作用のため本剤の抗凝血作用を急速に減少する必要がある場合には投与を中止するとともに、ビタミンK製剤の投与を要することがある。なお、脳出血等の重篤な出血を発現した場合には、必要に応じて、新鮮凍結血漿の輸注等の適切な処置も考慮すること。」と注意喚起されている。

そして、同薬剤の添付文書の併用注意として、「抗生物質製剤のセフェム系、ペニシリン系の薬剤」は、「同薬剤の腸内細菌抑制作用によりビタミンK産生が抑制される」という機序・危険因子から、「ワーファリンの作用を増強することがあるので、併用する場合には血液凝固能の変動に十分注意しながら投与すること」と注意喚起されている。

(オ)高齢者への投与

さらに、同薬剤添付文書には、「本剤は血漿アルブミンとの結合率が高く、高齢者では血漿アルブミンが減少していることが多いため、遊離の薬物の血中濃度が高くなるおそれがある。用量に留意し慎重に投与すること」と注意喚起されている。

イ.凝固系検査の必要性

 ワーファリンは凝固因子が肝臓で産生される際の材料となるビタミンKに拮抗することにより抗凝固作用を発揮する。凝固因子の作用の評価は凝固系検査であるPT(プロトロンビン時間)やAPTT(活性化部分のトロンボプラスチン時間)が代表的である。そして、ワーファリンにおいては、PT‐INRによって至適作用濃度にあるかどうかを評価するのが一般的である。

 また、ワーファリンの効果を増強させる薬剤の使用中も至適濃度に維持されているかどうかのチェックが必要となるが、作用増強は出血傾向の増大という形で表れやすいために、出血傾向の増大が認められる場合には患者の安全管理上、速やかPT-INRを測定する必要がある。

ウ.PT-INRについて

 PT-INRとは、プロトロンビン時間国際標準比のことである。プロトロンビン時間(PT)とは出血がはじまってから肝臓でプロトロンビン(血液凝固因子)がつくられるまでの時間のことである。「INR=患者PT/正常患者PT」の式で算出される。そのため、PT-INRの正常値は1である。ワーファリンを内服するとPTが延長する(INRが上昇)することになる。PT-INRの数値が大きくなるほど出血傾向が強くなる。

 ワーファリンの目標値はPT-INRが2.0以下では脳梗塞の予防が十分でなく、3.0以上では出血のリスクが高くなるという欧米の研究結果により2.0~3.0が目標とされる。日本における研究では、70歳以上の高齢者では出血のリスクが高く、2.6以上になると重篤な合併症が増加することから、1.6~2.6とやや低めに設定されている。日本循環器学会の2007年改訂版によるガイドラインでは、大動脈弁置換術後のPT-INRは2.0~2.5が推奨されている。また、高齢者では、1.6~2.2が目標とされている。

エ.治療について

 そして、作用過剰で出血傾向の増強が認められる場合には、その程度に応じて減量・中止・ビタミンK投与・新鮮凍結血漿(FFP)投与等の迅速な判断が必要となる。

オ.小括

 したがって、ワーファリンを服用している患者が、高齢で、ゾシンのようにワーファリンの作用を増強させやすい抗生剤を使用中であり、低栄養状態となり、喀痰や口腔内の出血がある状況下においては、医師は、ワーファリンの過剰作用を疑い、PT-INRの測定検査を実施し、作用過剰で出血傾向の増強が認められる場合には、その程度に応じて減量・中止・ビタミンK投与・新鮮凍結血漿(FFP)投与等の治療をする必要があるのである。

参考文献
今日の治療指針2012版 弁膜症の外科的治療、人工弁植込み患者のケア 医学書院
これだけは知っておきたいワルファリンの使い方のコツ
血栓止血の臨床-研修医のためにⅢ.2経口抗菌薬の適正使用
ワーファリン添付文書 エーザイ株式会社
プロトロンビン時間