1、慰謝料増額事由としての診療記録の改ざん等

 前回の記事では、医療過誤の存在を否定したにもかかわらず医療機関における診療記録の改ざん及び看護師への偽証教唆につき医療ミスとは別の不法行為として1500万円の慰謝料を損害として認定し、また、新生児死亡を死産であると虚偽の死産届を作成し夫に説明を行ったことにつき200万円の慰謝料を損害として認定し合計1700万円の慰謝料を原告らの損害として認定した裁判例(甲府地判平成16年1月20日判時1848号119頁)を紹介しました。

 この裁判例は、診療記録の改ざん行為等が極めて悪質であることに着目し医療過誤とは別個の不法行為を構成すると認定した点に意義がある裁判例として紹介しましたが、診療記録の改ざん等がこの事例ほど悪質な態様で行われる事例はそれほど多くないと考えられ、医療機関が診療記録の改ざんや意図的な加筆・修正を加えた事情は慰謝料を増額させる事情の一つとして考慮されることが一般的であるとされます。

2、裁判例(東京地判平成15年3月12日判タ1185号260頁)

(1)事案の概要

 この事案では、胃癌に対する治療として胃の切除術等を受けた患者に関し消化管穿孔による細菌性腹膜炎を疑わせる腹部理学所見が診療録に記載されているにもかかわらず当該所見に関するその後の日を追った記載がなく、症状を疑わせる肉眼的所見や自覚症状の詳細、全身的所見やレントゲン検査等の検査結果に関する判断など診断に必要な記載も欠落しており医師が患者の症状の原因をどのようにとらえ、どのように診療計画を立てたのかが全く示されておらず、診療録はずさんかつ不備なものでした。

 また、診療録と看護記録及び診療報酬明細書で投薬量が違っていること、数十か所にわたり修正液で消去し加筆した部分があること、診療報酬明細書から証拠保全の際に提出画像記録された他にもレントゲン写真やCT写真が撮影されたこと事実が認められること、他の医療機関への紹介状に記載された診療経過と診療録の記録との間に整合性がありませんでした。

(2)裁判所の判断

 裁判所は、(1)で挙げたような事情を踏まえ、証拠として提出されている診療記録は相当程度改ざんもしくは抜粋されたものである疑いが強いと認定したうえ、このような診療録の不備や証拠保全手続における医療機関の不誠実な対応が事実関係の究明を妨げることにより原告である遺族らの精神的な苦痛を強める結果となったことは否定できないとして慰謝料の増額事情と位置づけました。

(3)結論

 現在の日本の裁判においてはアメリカで認められるような懲罰的あるいは制裁的な性質をもつ慰謝料の支払いが命じられることは認められておらず、診療録の改ざん等が独立の不法行為と認められない場合には本裁判例のように患者側の慰謝料増額事情として扱われるものと考えられます。

 次回の記事では、改ざんが容易ではないとされる電子カルテの改ざんを認定した裁判例を紹介したいと思います。

弁護士 藤田 大輔