(1)心血管系

 左心室から拍出された血液は、上行大動脈と下行大動脈に分かれて全身の動脈を巡った後、全身の静脈から上大静脈と下大静脈に集約され右心房に流入する(体循環)。右心房に流入した血液は次に右心室へと送られ、右心室から拍出され、肺動脈を通って両側の肺に達し、肺静脈を通って左心房に流入する(肺循環)。左心房に流入した血液は、その後、再び左心室へと送られる。この一連の血液循環を心血管系という。

(2)肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症

ア 肺血栓塞栓症(肺血栓症、肺塞栓症)

 肺血栓塞栓症(PTE:pulmonary thromboembolism)とは、肺血栓症と肺塞栓症の総称である(「医学大辞典 第2版」(医学書院、2009)・肺血栓塞栓症)。

 前者の肺血栓症(PT:pulmonary thrombosis)とは、肺動脈内腔に一次性に形成された血栓により閉塞された病態である。他方、後者の肺塞栓症(PE:pulmonary embolism)とは、静脈系から肺動脈へ流入した物質(塞栓子、塞栓源)により肺動脈が閉塞された病態である。臨床的には、後者の肺塞栓症が大半である(「医学大辞典 第2版」(医学書院、2009)・肺血栓塞栓症)。そのため、肺血栓塞栓症は、肺塞栓症と縮めて呼ばれることが多い(「カラー版 循環器病学 基礎と臨床」(西村書店、2010)795頁)。

イ 急性肺血栓塞栓症

 肺血栓塞栓症を時期により分類すると、症状[1]発現から2週間以内のものを急性といい、症状発現から6か月以上経過したものを慢性といい、その間のものを亜急性という(「カラー版 循環器病学 基礎と臨床」(西村書店、2010)795頁)。

 なお、「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)」( http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_andoh_h.pdf 以下、単に「ガイドライン」という。)も、慢性とは、6か月以上に亘って肺血流分布及び肺循環動態の異常が大きく変化しない病態をいうと定義している(ガイドライン8頁)。

 急性肺血栓塞栓症は、静脈、心臓内で形成された血栓(塞栓源、塞栓子)が、起立、歩行、排便などの際に筋肉が収縮し、筋肉ポンプの作用により静脈還流量が増加することによって、遊離し、急激に肺血管を閉塞することによって生じる疾患である。その塞栓子、塞栓源の90%以上は、下肢又は骨盤内の静脈(深部静脈)である(ガイドライン5頁)。

ウ 深部静脈血栓症

 深部静脈血栓症とは、筋膜より深い深部静脈に血栓を生じた状態をいう。発生部位としては、頸部・上肢静脈、上大静脈、下大静脈、骨盤・下肢静脈などがあるが、発生頻度が特に高いのは骨盤・下肢静脈であり、そのなかでも大部分を占めるのは下腿静脈である(ガイドライン10頁)。

 骨盤・下肢静脈の深部静脈血栓症の病型は、中枢型(膝窩静脈から中枢側のもの)と末梢型(膝窩静脈より末梢側のもの)とに分かれる。また、病期は、臨床症状と静脈還流障害から、急性期と慢性期に分かれる(ガイドライン11頁)。

 四肢の深部静脈で形成された血栓は、中枢に進展し、塞栓化する。骨盤・下肢静脈では、仰臥位や座位では股関節や膝関節の運動により血栓が剥離し、立位では歩行運動に伴う下腿筋ポンプ作用により血栓が駆出される。塞栓化の時期は、発生や進展から1週間以内が多い肺血栓塞栓症の重症度は、塞栓の大きさと頻度が関係する重症の肺血栓塞栓症は、膝窩静脈より末梢側でも発症する(ガイドライン11頁)。

エ 急性肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症の関係

 急性肺血栓塞栓症とその塞栓源となる深部静脈血栓症は、一つの疾患が異なる形で現れたものである(ガイドライン21頁)。

 深部静脈血栓症は、殆どの肺血栓塞栓症の原因とされている(「静脈血栓塞栓症予防ガイドブック―エキスパートオピニオン」(南江堂、2010)2頁)。

 肺血栓塞栓症は深部静脈血栓症の合併症ともいえ、静脈血栓症として一つの連続した病態と捉えられている(ガイドライン2頁)。