1、診療録の改ざん

 医療過誤事件では、患者側が医療機関側の医療ミスを証明するにあたっては診療録等の記録を検討することが不可欠となります。

 しかし、医療過誤事件の法律相談を受けていると診療録に記載された内容と患者側が認識している内容が食い違っているがどうしたらよいかと相談されることがあります。

 相談者の方の中には患者さんのご家族の方もおられ入院中における患者さんの様子を毎日日記に書かれている方もおられますが、その日記を見せていただくと診療録の記載内容と食い違っていることもあります。

 診療録は医師が患者の診療内容などの内容を正確に記載されているはずですし、ご家族として患者さんを心配される心情から患者さんがより重篤であるように感じられることもありますので一般論としては医師としての立場から客観的に記載された診療録の内容の方が信用性が高いといえるでしょう。

 しかし、非常に残念なことですが医師らが診療行為のミスを隠す目的などから診療録の意図的な改ざんなどが行われ事実が隠ぺいされてしまうこともあります。

 最近では、改ざんが難しいとされる電子カルテシステムを導入する病院が増えていますので手書きの紙カルテが作成される場合に比べて診療録の改ざんが行われることは少なくなっているようですが、もし診療録が意図的に改ざんされた場合には医療ミスを証明することが難しくなり患者側が適切な損害賠償を受けることが困難となります。

 このため、診療録が意図的に改ざんされたことが明らかとなった場合に患者側は医療機関に対し医療ミスとは別に損害賠償請求を行うことができないかが問題となります。

2、診療録の改ざんに対し損害賠償責任を認めた裁判例

 注目すべき裁判例として、妊婦が男児を出産後に産後出血を起こし播種性血管内凝固症候群により死亡した事案で医師が診療記録の改ざんや偽証工作を行った医療ミス自体は否定しましたが診療記録の改ざんを医療ミスとは別の不法行為を構成するとして1500万円の慰謝料を認め、新生児死亡を死産であると虚偽の死産届を作成し夫に説明を行ったことにつき200万円の慰謝料を認めた裁判例(甲府地判平成16年1月20日判時1848号119頁)があります。

 この事案は、診療録等の改ざん(改ざん前の記録は廃棄)や医師が看護師に診療経過につき虚偽の証言をさせたという本事案特有の極めて悪質な特殊事情を考慮して高額な慰謝料が認められた事案であると考えられますので、あらゆる事案で高額慰謝料が認められるわけではないと考えられます。

 しかし、診療録の改ざんを含む事実の隠ぺい行為が医療ミスとは別個の不法行為を構成しうることを明らかにした点に大きな意義があると思います。

 次回の記事では、診療録の改ざんなどを別個の不法行為として認めなかったものの、慰謝料の増額事由として認定された裁判例を紹介したいと思います。

弁護士 藤田 大輔