説明義務違反による損害

 説明義務違反があった医療行為により死亡等の悪しき結果が生じていることが前提である。
 悪しき結果が生じている場合、医療行為が医療水準にかなっていたかという観点との関係で整理すると次の二つがある。

 ①説明義務違反が認められ、かつ、医療行為も医療水準にかなわなかった場合、②説明義務違反が認められるが、医療行為は医療水準にかなったものであった(しかし悪しき結果が生じた)場合である。

 ①の場合、さらに①―1たとえば、乳がんではないのに、医師が過失により乳がんと誤った診断をし、患者に乳がんである旨説明をしたうえで、乳房切除したように、誤診により説明内容が誤ったものとなり、実施した医療行為も当然不適切であったという場合
 ①―2合併症について適切な説明がされず、かつ、実施した手術中に過誤があったというように説明義務違反と医療行為上の過失が独立したものである場合がある。

 ①―1の場合には、説明内容と実施された医療行為はいずれも誤診に基づいた一連のものであり、説明義務違反は医療行為上の過誤(誤診)により評価されているといえる。したがって、医療行為上の過失とは別に独立して説明義務違反は問題にならないといえる。

 ①―2の場合には、説明義務違反と医療行為上の過失は独立したものであるので、いずれも問題となるが、医療行為上の過失が認められると、それによる損害が認められるので、説明義務違反の判断をする意義が失われる。

 ②の場合はさらに、②―1医師がその説明義務を尽くしていれば、患者は現に行われた医療行為を受けなかったと考えられる場合、②―2医師がその説明義務を尽くしていたとしても、患者は現に行われた医療行為を受けたと考えられる場合がある。

 ②―1については、説明義務が尽くされていれば、患者は当該医療行為を受けず、その結果悪しき結果も生じなかったのであるから、説明義務違反と悪しき結果との間に相当因果関係が認められることになり、悪しき結果によって生じた損害が認容されることになると考えられる。つまり、この場合、医療行為に過失がなかったとしても、医療行為に過失があった場合と同様、休業損害、逸失利益、慰謝料等の損害が認められることになる。

 これに対し、②―2については、説明義務違反があったとしても、当該医療行為を受けたといえるのであるから、説明義務違反と悪しき結果との間に因果関係はなく悪しき結果についての損害は認めらない。ただし、患者は自らの意思でいかなる医療行為を受けるかを決定する機会を奪われたのであり、患者の自己決定権は人格権の内容として保護されるべき利益であるから、それが侵害されたことによる慰謝料が認められる。同じ結果が生じたとしても、自らその医療行為を選択した場合と選択の機会が与えられなかった場合とでは、患者としてはその結果がやむを得なかったと思える程度が異なると考えられ、それに関する精神的苦痛が慰謝料として認められることになると考えられる。
 (判例タイムスNo.1401P68、69)

弁護士 佐々木 将司