脳卒中とは、脳梗塞とは

 脳卒中は、血管が詰まって起こるものと、血管が破れて起こるものに大別される。

 このうち、前者(血管が詰まって起こるもの)を脳梗塞という。脳梗塞は、①アテローム血栓性脳梗塞、②ラクナ梗塞、③心原性脳梗塞に大別され、脳卒中死亡の約60%を占める。
 血管が詰まって起こるものとしては、このほかに、一過性脳虚血発作もある。これは、血管が詰まってから24時間以内に回復するものであり、脳梗塞の予兆とされる。

 これに対し、後者(血管が破れて起こるもの)には脳出血とくも膜下出血がある。
 脳出血は、脳内の細い血管が破綻して出血するものであり、脳卒中死亡の約25%を占める。
 他方、くも膜下出血は、脳を覆う3層の膜(内側から、軟膜、くも膜、硬膜)のうち、くも膜と軟膜の間にある動脈瘤が破綻し、膜と膜の間に溢れた血液が脳全体を圧迫するものであり、脳卒中死亡の10%強を占める。

rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法とは

脳梗塞に対しては、現在、有効性の高い治療法がある。rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法である。

 これは、脳梗塞を発症した場合に、可及的速やかに(発症後4.5時間以内に)、血栓溶解剤であるアルテプラーゼ(alteplase)[1]を静脈内に投与する(10%を急速に、残量を1時間かけて緩徐に静注する)ことによって、脳血管の梗塞を解除し、脳細胞の壊死を最小限にとどめる治療法である。

 国内の臨床試験(J-MARS)の結果をみると、投与3ヶ月後に完全自立(modified Rankin Scale : mRS0~1)に復した例が33.1%もある一方、投与36時間以内に症候性頭蓋内出血を発症した例は3.5%にすぎない。出血傾向を増大させるリスクはあるものの、その有効性が極めて高いことは明らかである。

 当事務所に寄せられる相談のなかにも、rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法の機を逸したために重篤な障害を後遺したのではないかと疑われる事案が相当数ある。明らかに予後を改善する治療法である以上、適応判断の誤りは高額な賠償責任を生ぜしめかねないことを強調しておきたい。

指針(第二版)の推奨事項

 rt-PA静注療法は、本邦では2005年に保険適用となった。2012年には、それまでの7年間に蓄積された使用経験を踏まえ、rt-PA静注療法の適正治療指針が改正された(日本脳卒中学会『rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針第二版』 http://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA02.pdf )。主な変更点は、治療可能時間が発症後3時間以内から4.5時間以内へと伸長されたことなどである。

 以下、同指針に記載された推奨事項を転記する。
 エビデンスレベル及び推奨グレードについては、脚注[2]を参照されたい。

●治療薬
1. 静注用の血栓溶解薬には、アルテプラーゼを用いる【エビデンスレベルIa,推奨グレードA】。
2.アルテプラーゼ静注療法によって、3ヵ月後の転帰良好例は有意に増加する。一方で症候性頭蓋内出血は約3~10倍増え、5~20%にみられる【Ia】。
3.わが国においては、アルテプラーゼ0.6mg/kgを静注する【IIa, A】。
●治療開始可能時間
4.アルテプラーゼ静注療法は、発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害患者に対して行う【エビデンスレベルIa, 推奨グレードA】。
5.発症後4.5時間以内であっても、治療開始が早いほど良好な転帰が期待できる。このため、患者が来院した後、少しでも早く(遅くとも1時間以内に)アルテプラーゼ静注療法を始めることが望ましい【Ia, A】。
6.発見時刻は発症時刻ではない。発症時刻が不明な時は、最終未発症時刻をもって発症時刻とする【IV, A】。
●治療の適応
7.アルテプラーゼ静注療法の対象は、全ての臨床カテゴリーの虚血性脳血管障害患者である【エビデンスレベルIa, 推奨グレードA】。
8.発症後4.5時間を超える場合【Ia】、非外傷性頭蓋内出血の既往がある場合、胸部大動脈解離が強く疑われる場合、CTやMRIでの広汎な早期虚血性変化の存在など【以上、III】は、アルテプラーゼ静注療法の適応外項目である。一項目でも適応外に該当すれば、本治療を行うことは推奨されない【D】。
9.慎重投与項目とは、投与を考慮してもよいが、副作用その他が出現し易く、かつ良好な転帰も必ずしも期待できない条件を指す。このような項目を有する症例では、治療担当医が治療を行う利益が不利益よりも勝っていると判断し、患者ないし代諾者への十分な説明により同意を得た場合に限り、治療実施が可能である【IIa, C1】。
10.適応基準から逸脱したアルテプラーゼ投与は、症候性頭蓋内出血や死亡の危険を高める【IIb】。
●治療を行う施設
11.CTまたはMRI検査が24時間実施可能で、集中治療のために十分な人員(日本脳卒中学会専門医などを中心とする診療チーム)及び設備(ストロークケアユニットまたはそれに準ずる設備)を有し、脳神経外科的処置が迅速に行える体制が整備されている施設で、アルテプラーゼ静注療法を行う【エビデンスレベルIa, 推奨グレードA】。
●発症より来院までの対応
12.アルテプラーゼ静注療法を適切に行うために、市民啓発や救急隊員の病院前救護の改善に努め、患者の迅速な受診を促す【エビデンスレベルIIa, 推奨グレードB】。
13.病院内の医療従事者は患者情報の第一報を受けたときに、発症時刻などに関する出来るだけ正確な情報を入手し、来院後迅速に対応できるよう、院内の準備を進める【III, B】。
●病歴・診察・臨床検査
14.初診時に可能な範囲で脳卒中以外の疾患の鑑別に努める【エビデンスレベルIV, 推奨グレードA】。
15.NIHSSを用いた客観的な重症度評価を行う【IV, A】。
16.臨床検査では、出血性素因や症候性頭蓋内出血の危険因子を評価する【IV, A】。
●頭部・頸部の画像診断
17.単純CTあるいはMRIを用いて、頭蓋内出血を除外し、早期虚血性変化の程度を評価する【エビデンスレベルIa, 推奨グレードA】。
18.早期虚血性変化が広がるほど症候性頭蓋内出血の危険が増す可能性があるので、広汎な早期虚血性変化を認める患者にアルテプラーゼ静注療法を行うことは推奨されない【Ia, C2】。
19.脳血管評価は必須ではない。しかしながら、アルテプラーゼ静注療法の治療効果は血管閉塞部位ごとに異なるので、慎重投与例などでの適応決定において重要な情報となることがある【IIa, C1】。
20.必要最低限の画像診断に留め、時間を浪費しない【IV, A】。
●適応の判定と説明・同意
21.適応例に対しては、アルテプラーゼ静注療法により予想される利益・不利益について、可能な限り患者ないし代諾者に説明し、その同意を得ることが望ましい【エビデンスレベルIV, 推奨グレードB】。
22.慎重投与例に対しては、患者ないし代諾者への十分な説明に基づく同意取得が必要である【IV, B】。
●投与開始後の管理
23.アルテプラーゼ0.6mg/kgの10%を急速投与し、残りを1時間で静注する【エビデンスレベルIIa, 推奨グレードA】。
24.治療開始後24時間以上は、SCUないしそれに準じた病棟での管理が推奨される【Ia, B】。
25.治療開始後の24時間は、血圧の管理や抗血栓療法の制限が重要である。症状増悪時には迅速な診断を行い、必要があれば可及的速やかに脳神経外科的処置(開頭血腫除去術など)を実施する【III, B】。
●血管内治療
26.アルテプラーゼ静注療法の適応症例に対して、血管内治療を優先的に行うことは推奨されない【エビデンスレベルIIa, 推奨グレードC2】。
27.ウロキナーゼを用いる発症後6時間以内の局所線溶療法は、中大脳動脈閉塞症の転帰を改善させ得る【Ia, B】。
28.発症後8時間以内の機械的再開通療法は、アルテプラーゼ静注療法の非適応および無効例に限って承認されたが、その有効性・安全性は未だに検証中であることに留意する【IIa, C1】。
29.その他の血管内治療の有効性・安全性は確認されておらず、臨床研究の範囲で行うべきものである【IIa, C1】。

rt-PA静注療法の適応はどのように判断するか

 とりわけ重要なのは、適応判断である。

 前記指針によれば、rt-PA静注療法の適応の可否は、大要、次の基準で判断するべきである。

 一項目でも「禁忌」に該当すれば実施しない。
 一項目でも「慎重投与」に該当すれば、適応の可否を慎重に検討し、治療を実施する場合は患者本人・家族に正確に説明し同意を得る必要がある。
 「慎重投与」のうち、下線をつけた4項目に該当する患者に対して発症3時間以降に投与する場合は、個々の症例ごとに適応の可否を慎重に検討する必要がある。

禁忌1

 発症から治療開始時刻までに4.5時間超を経過していること。

禁忌2

 既往歴として、①非外傷性頭蓋内出血、②1ヵ月以内の脳梗塞(一過性脳虚血発作を含まない)、③1ヵ月以内の脳梗塞(一過性脳虚血発作を含まない)、④3ヵ月以内の重篤な頭部脊髄の外傷あるいは手術、⑤21日以内の消化管あるいは尿路出血、14 日以内の大手術あるいは頭部以外の重篤な外傷、⑥治療薬の過敏症のいずれかがあること。

禁忌3

 臨床所見として、①くも膜下出血(疑)、②急性大動脈解離の合併、③出血の合併(頭蓋内、消化管、尿路、後腹膜、喀血)、④収縮期血圧(降圧療法後も 185mmHg 以上)、⑤拡張期血圧(降圧療法後も 110mmHg 以上)、⑥重篤な肝障害、⑦急性膵炎のいずれかがあること。

禁忌4

 血液所見として、①血糖異常(<50mg/dl、または>400mg/dl)、②血小板100,000/mm3以下のいずれかがあること。

禁忌5

 血液所見:抗凝固療法中ないし凝固異常症において、①PT-INR>1.7、②aPTT の延長(前値の1.5 倍[目安として約40秒]を超える)のいずれかがあること。

禁忌6

 CT/MR 所見として、①広汎な早期虚血性変化、②圧排所見(正中構造偏位)のいずれかがあること。

慎重投与1

 年齢 81 歳以上であること。

慎重投与2

 既往歴として、①10 日以内の生検・外傷、②10 日以内の分娩・流早産、③1 ヵ月以上経過した脳梗塞(とくに糖尿病合併例)、④3 ヵ月以内の心筋梗塞、⑤蛋白製剤アレルギーのいずれかがあること。

慎重投与3

 神経症候として、①NIHSS 値 26 以上、②軽症、③症候の急速な軽症化、④痙攣(既往歴などからてんかんの可能性が高ければ適応外)のいずれかがあること。

慎重投与4

 臨床所見として、①脳動脈瘤・頭蓋内腫瘍・脳動静脈奇形・もやもや病、②胸部大動脈瘤、③消化管潰瘍・憩室炎、大腸炎、④活動性結核、⑤糖尿病性出血性網膜症・出血性眼症、⑥血栓溶解薬、抗血栓薬投与中(とくに経口抗凝固薬投与中)、⑦月経期間中、⑧重篤な腎障害、⑨コントロール不良の糖尿病、⑩感染性心内膜炎のいずれかがあること。

[1]遺伝子組換え組織型プラスミノゲン・アクティベータ(recombinant tissue-type plasminogen activator: rt-PA)
[2]エビデンスレベル及び推奨グレード
レベルIa 無作為化比較試験(randomizedcontrolledtrial:RCT)のメタアナリシス
レベルIb 少なくとも一つ以上のRCT
レベルIIa 良くデザインされた非ランダム化比較研究
レベルIIb 良くデザインされた準実験的研究
レベルIII 良くデザインされた非実験的記述研究(比較・相関・症例研究)
レベルIV 専門家の報告・意見・経験

グレードA 行うよう強く勧められる
グレードB 行うよう勧められる
グレードC1 行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がない
グレードC2 科学的根拠がないので、勧められない
グレードD 行わないように勧められる