1.がんであるとの誤診(本記事は乳がんに関する過失肯定例を紹介します)

 一般に、がんをめぐる医療過誤の内容としては、がんの見落とし、治療方針(手術適応や手術の術式選択の誤り、治療自体の失敗など、がんに対する適切な治療が受けられなかったことを内容とするものが多いです。

 しかし、医師ががんではない患者をがん患者であると誤診したために患者が本来不必要であった治療を受けることで損害が発生するという医療過誤も存在します。

 がんの確定診断は病理診断(組織診、細胞診)によることが多いため病理検査の誤りが医師の注意義務違反の中心になると考えられます。

 乳がんなどは、病変部を切り取り診断する組織診ではなく病変の一部分を採取し診断する細胞診レベルでも診断がつくことが多いとされており組織診が行われないまま乳がんとの診断がされることがあるようです。

 このため、裁判となった事案には乳がんに関する事案が多いように思われます。

2.乳がんに関する誤診につき医師の過失が肯定された裁判例

①名古屋地裁平成15年11月26日判タ1157号217頁

 良性繊維腺腫であった患者に対し生検をしないまま乳がんと診断し、乳腺切除や腋窩リンパ節郭清術を行った事案です。

 裁判所は、乳がんの手術が必要かどうかの診断を行うにあたり医師には腫瘍が良性か悪性かの鑑別を極めて慎重に行うべき注意義務があるとして、画像診断等の検査結果から腫瘍が良性である可能性があった事実を前提として鑑別のために生検を行うべき注意義務の存在を認め、医師にかかる注意義務違反を認めました。

②東京地判平成19年3月29日

 ⅢB期にあった乳がん患者を骨転移があるためⅣ期であると誤診し根治を目的とする治療ではなくがんの進行を抑えがんと共存することを目的とするホルモン剤投与による治療が行われた事案です。

 裁判所は、骨レントゲンの結果は骨転移についての疑問を差し挟みうる内容であったこと、より確実な診断を行うためのMRI検査を避けるべき特段の事情も見当たらないこと、ⅢB期とⅣ期では治療方針ががんの根治かがんとの共存かという決定的な違いがあることを前提として、MRI検査を行わなかった医師の注意義務違反を認めました。

 ただし、乳がんの進行度とは関係なく腋窩リンパ節廓清が行われ、合併症として上腕挙上障害や上腕浮腫等の合併症が生じる場合があることを理由として、医師の注意義務違反と腋窩郭清の合併症として生じた上腕等の障害との間の因果関係を否定し損害としては150万円の慰謝料を認めるにとどまりました。

弁護士 藤田 大輔