1 医療過誤訴訟における裁判上の和解

 医療過誤を原因とする損害賠償請求を求めて民事訴訟を起こした場合、訴訟は裁判所が判決をするか当事者の意向に基づく裁判上の和解(以下では単に「和解」といいます。)により終了します(原告側が訴えを取下げることなどにより終了することもありえますが稀でしょう)。

 「訴訟」というと必ず裁判所が判決をすることをイメージされる方が多いですが、実際は和解で裁判が終了することもあり(民事訴訟全体の2~3割程度)、療過誤事件では約半数の事件が和解で終了する傾向にあります。

 医療過誤の訴訟が和解で終了することが多い理由はいくつか考えられると思いますが、筆者の私見では、医療過誤という専門性の高い訴訟では患者側(原告)が医療過誤を十分に特定・立証できないとしても実体的に何らかの過誤があったと推定される場合や患者が死亡したり重度の後遺障害が残るなどした場合にまで患者側(原告)に一切の救済がされないことが不適切であるという意識が裁判所だけではなく病院側(被告)との間でもある程度は共有されており、このような事件で裁判所が積極的に和解を勧めた場合には医療機関側(被告)も和解に応じることが多いからではないかと考えます。

2 和解により解決するメリット

 判決がされた場合には判決の内容に納得がいかない当事者は上訴(控訴、上告)をすることが考えられ解決までに数年単位での時間を要することがありますが、和解が成立すれば終局的な解決が図られます。

 また、和解は当事者が納得した内容で成立するため患者側(原告)が医療機関側(被告)からスムーズな任意履行を受けられることが期待できます。

 さらに、柔軟な解決内容として医療機関側から患者側に十分な経緯説明や謝罪を行うこと、再発防止に取り組む約束を和解内容に盛り込むことや、秘密条項(事件を口外しない約束)を和解内容に盛り込むことなどが可能となり感情的なしこりを後に残さない解決を行うことが期待できます。

3 和解により解決するデメリット

 和解を成立させる場合には両当事者が譲り合い双方に利益をもたらす内容であることが条件となりますので患者側(原告)が受け取ることができる損害賠償額が判決による場合と比べて低額となることがほとんどです。

 また、患者側(原告)が損害賠償金を受け取るよりも社会に対し強く問題提起を行うことを希望する場合などにおいては和解内容として秘密条項等が定められた場合に患者側(原告)の希望が達成されないことが考えられます。

4 裁判上の和解の効力

 当事者が和解をすると、裁判所が和解調書という書面を作成しますが、和解調書は判決と同じ効力がありますので、例えば医療機関側(被告)が患者側(原告)に対して和解で決まった通りに賠償しない場合には患者側(原告)は強制執行の手続きにより医療機関側(被告)の財産を差し押さえることが可能となります。

5 和解についての考え方

 筆者としては、大きな視点で見れば和解による解決は当事者双方にとってデメリットよりもメリットの方が大きい解決方法であると思いますので和解で事件が終了することが望ましいといえる場合が多いと思います。

 しかし、訴訟さえ提起すれば医療機関側(被告)と和解が出来るであろうという安易な見通しを持って十分な証拠が準備できないにもかかわらず訴訟を提起することは控えるべきであると思います。

 なぜなら、このような訴訟を提起すると患者側が敗訴することや非常に不利な内容での和解に応じざるを得ない状況を招く可能性が高く、そのような状況になった場合にはただでさえ身体的・精神的に大きなダメージを受けている患者側(原告)に多大な金銭的・時間的な負担をさらに強いることになってしまうからです。

 もっとも、訴訟を提起する段階で証拠が完全に揃うという場合は稀であると思いますし、事案の内容にもよりますが訴訟外での和解交渉では医療機関側も賠償及び賠償額において消極的姿勢をとる傾向がみられますので、医学文献や協力医からの意見聴取によりある程度の主張・立証計画が立つ場合には訴訟を提起することが和解への近道となることもあり得ると考えられます。

 結局のところ、適切な内容の和解を行うためには患者側は訴訟を提起するつもりでしっかりとした証拠収集を行うことが必要であると考えられます。

弁護士 藤田 大輔