1、消滅時効とは

 消滅時効とは、権利者が一定期間権利を行使しない場合に請求権が消滅する法律上の制度をいいます。
 医療過誤を原因とする損害賠償請求権も消滅時効により消滅する可能性がありますので注意が必要です。

 次に詳しく述べますが、医療過誤を原因とする損害賠償請求を行う場合の法律上の根拠としては不法行為責任(民法709条)、債務不履行責任(民法415条)を根拠としますが、不法行為責任を根拠とする場合には3年、債務不履行責任を根拠とする場合には10年という期間を意識する必要があります。

2、消滅時効期間の起算点(開始時点)と時効期間

(1)法律の規定

 上述のとおり、医療過誤を原因とする損害賠償請求を行う場合には不法行為責任(民法709条)、債務不履行責任(民法415条)を根拠とします。

 不法行為責任を根拠とする場合は「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき」は損害賠償請求権が消滅時効により消滅することになります(民法第724条)。

 債務不履行責任を根拠とする場合は「権利を行使することができる時から十年間行使しないとき」は損害賠償請求権が消滅時効することになります(民法第166条、同167条)。

(2)どのような場合に消滅時効にかかるのか

 不法行為責任を根拠とする場合には時効の起算点(開始時期)は「損害及び加害者を知った時」とされますが、医療過誤による被害を受けた場合において「損害及び加害者を知った時」とはどのように解釈するべきかが問題となります。

 裁判上では①「損害を知った時」とは症状固定時(治癒しない症状の残存とその内容・程度が明らかになり、一般通常人において、残存する症状を後遺障害として認識、把握し得べき程度に至った時や、社会通念上、後遺障害による損害及び損害額を算定し得る程度に病状が固定したとき)と考えられることが一般的です(仙台高判平成10年8月5日判時1678号91頁など)。

 次に、②「加害者を知った時」とは被害者が医療機関に対して証拠保全手続を申立てるより以前の段階では消滅時効の起算を認めない傾向にあるようで(大阪地判平成10年2月16日判タ1002号234頁など)、被害者が医療行為によって被害を被った抽象的な可能性があるのではないかと疑っている時点では「損害及び加害者を知った時」とは扱わず、少なくとも被害者が証拠保全手続等により診療録等した以降の時期を消滅時効の起算点(開始時期)と扱っているものと考えられます。

 また、債務不履行責任を根拠とする場合にも、現実的に損害賠償請求が可能となったときから時効期間の開始を認める傾向にあるようです(大阪地判昭和63年7月15日判タ699号231頁など)。

(3)医療過誤による損害賠償請求の特殊性

 医療過誤事件による損害賠償請求権の消滅時効について以上のような取扱いがされている理由は、医療過誤事件は交通事故事件等のように損害が発生した当初から加害者や責任の存否が明らかでないことが多く、被害者側が医療機関等から診療録等を入手し十分な調査を行わなければ診療行為を行った医師等が「加害者」あるいは損害賠償請求の相手方といえるのか判断できないという特殊性が影響していると考えられます。

 逆に言えば、医療過誤があったことが明らかであり医療機関も医療過誤の存在を認めているような場合には、逆に被害者が診療録等を入手する以前の時期が消滅時効の起算点(開始時期)と扱われる可能性がありますので注意が必要です。

弁護士 藤田 大輔