前回の記事はこちら:肺血栓塞栓症(勝訴判例)2

第5 東京地裁平成16年5月27日

 平成14年7月17日、患者が呼吸困難等のため被告病院に搬送されたところ、肺血栓塞栓症を診断するための適切な検査が行われず、その結果治療が遅れ、同月18日に、肺塞栓症を原因として死亡した事案。

 この事案も、7000万円近い損害賠償が認められており、原告側が全面勝訴した事案と言える。

 初診時には、既に肺血栓塞栓症を発症しており、②の過失が問題となる。

 上記福岡地裁小倉支部の事案とは異なり、初診時には患者が肺血栓塞栓症を発症していたものの、医師が適切な検査を怠った結果、処置が遅れ、患者が死亡したという事案である。

 医師は、血圧測定、心拍数測定、採血、胸部レントゲン撮影、心電図といった検査を行った。その結果、狭心症や心筋梗塞ではないと判断した。

 肺血栓塞栓症についての疑いも持っていたが、肺血栓塞栓症の検査において重要となる心エコー検査をするのが遅れ、結果を確認したのは午後9時であった。

 確定診断に必要な検査を翌日に回した結果、患者は肺血栓塞栓症で死亡した。

 下は、判決の抜粋である。

「したがって、これまでに認定した事実を総合すると、17日中にAについて肺血流シンチ等、肺塞栓症の確定診断のための検査が行われなかったのは、B医師あるいは被告病院側の事情でその時期を逸してしまったものと認められ、B医師は、心エコー検査の重要性は十分に認識していながら、忙しかったためにその結果の確認が遅れ、午後9時ころに結果を確認した時点では、急性肺塞栓症の可能性があると判断しながら、この時点で検査を実施するのは、よほど緊急性がある場合に限られるので、仮に急性肺塞栓症であったとしても、翌日までに再発することはないだろうと軽く考え、本件心エコー検査のビデオ画像の確認もせず、肺塞栓症の確定診断に必要な検査もしなかったものと推認される。」

「心エコー検査の結果が出たら直ちにこれを確認し、本件心エコー検査のビデオ画像も確認して、肺高血圧症の所見を得たら、肺血流シンチ等、肺塞栓症の確定診断のための検査を実施し、肺塞栓症と確定診断がされたら、ヘパリンを投与して再発を防ぐべき義務」

 があったにもかかわらず、これを怠った点に過失があるとされている。
 早期にヘパリンが投与されていれば、患者は死亡しなかったとして、過失と死亡との間に相当因果関係を認めた。

第6 新潟地裁平成15年12月26日

 平成11年2月12日、被告病院で受けた腹部血管造影検査の止血のため、患者の「穿刺部付近である右大腿部に重さ2kgの砂嚢が置かれ、翌朝まで床上での安静」が指示されたところ、同月13日、患者が肺血栓塞栓症を発症し、同月17日死亡した事案。

 この事案では、過失と死亡との間に因果関係があるとされ、9537万1961円の損害賠償が認められている。全面勝訴事案と言える。

 この事案は、腹部血管造影検査を受けた患者に対する止血のため、2キロの砂嚢を約17時間大腿部に置き、その間一度も体位変換しなかったことが過失にあたるかが問題となっている。

 判決では、上記措置により、「患者の静脈内の血流がうっ滞し、静脈内に血栓が発生し、同血栓が塞栓子となって本件肺塞栓症を発症したものと推認することができる」、と述べられている。

 以下は、判決の抜粋である。病院の処置は、病院の内部ルールにも反しており、問題があったことは明らかであろう。

「Aは本件検査終了後である平成11年2月12日午後2時ころから翌13日午前6時40分ころまでの約16時間40分の間,通常の3倍ないし4倍の長時間にわたって2㎏の砂嚢が置かれ,しかも,この長時間にわたる砂嚢の存置は,被告病院の当時の通常の取扱い例に反するものであったこと,すなわち,被告病院内科病棟の当時の取扱いである,当初砂嚢2㎏を3時間,その後1㎏を3時間,合計6時間との取扱いはもとより,被告病院外科病棟での通常の取扱いである,一応2㎏を就寝前(消灯の午後9時)まで,1㎏を安静解除時(翌朝回診時)までとする取扱い例に反する異常に長時間の砂嚢存置であり,置かれた砂嚢の重量も,上記医学的知見からすると,最も重めの2㎏の砂嚢であり,結局,Aの右大腿部に砂嚢2㎏が,数回の看護師による穿刺部の確認の際に一時外すないしずらした以外は,約16時間40分の長時間,継続して存置され,かつ,この間,一度たりとも体位変換がなされずずっとAの右大腿部へ置かれたままであったこと,以上が認められる。」

 また、

「本件検査後の止血処置としての砂嚢の圧迫が過度にわたる場合は肺塞栓症を発症し得ることについて予見可能であったもので,それぞれが医師としての注意義務を十分尽くしていれば本件の結果を回避できたものであり」

 として医師の過失を認めている。

 本件では、医師が予防措置を怠った結果、肺血栓塞栓症が発症したというわけではなく、むしろ医師の作為を契機として肺血栓塞栓症を誘発しており、特殊な事案と言える。
 大変興味深い裁判例ではあるが、事案の特殊性を念頭に置いて評価する必要がある。