ア 腎不全

(ア)腎不全,急性腎不全,腎性急性腎不全,急性尿細管壊死の病態

a 腎不全

腎不全とは,糸球体濾過量(GFR)[1]の低下を中心とした腎機能障害がある状態をいう。

そして,腎不全は,腎不全状態出現の経過により,急性と慢性に大別される(以上aにつき,病気がみえるvol.8腎・泌尿器202頁)。

b 急性腎不全

急性腎不全とは,数時間から数週間単位の急激な腎機能低下により,体液の恒常性維持機構が破綻し,高窒素血症,水・電解質異常,酸塩基平衡異常などを来す病態をいう。そして,急性腎不全は,病態により,腎前性,腎性,腎後性の3つに分けられる(以上bにつき,病気がみえるvol.8腎・泌尿器202頁)。

     c 急性腎性腎不全,急性腎前性腎不全,急性腎後性腎不全

(a)第一に,急性腎性腎不全とは,腎実質の障害により生ずる急性腎不全をいう。横紋筋融解症(後記イ)などによる急性尿細管壊死(後記d)が誘因となることもある。

(b)第二に,急性腎前性腎不全とは,腎実質は正常であるが,循環血液量の減少や心拍出量低下などによって腎血流量が低下した結果生じる急性腎不全をいう。急性腎前性腎不全は,尿細管に障害を来すと急性尿細管壊死による急性腎性腎不全に移行する。

(c)第三に,急性腎後性腎不全は,尿路の通過障害により尿が鬱滞することで生じる急性腎不全をいう。急性腎後性腎不全は,閉塞が持続すると急性腎性腎不全に移行する(以上cにつき,病気がみえるvol.8腎・泌尿器202,204,205頁)。

     d 急性尿細管壊死

急性尿細管壊死とは,腎血流障害,腎毒性物質などにより尿細管細胞が壊死に至る病態をいう(医学大辞典)。急性腎不全の35から40パーセントを急性腎性腎不全が占め,急性腎性腎不全の90パーセントを急性尿細管壊死が占める。急性尿細管壊死は,器質的な障害のない腎前性のものを除くと,急性腎不全のうち最も高頻度であり,しばしば臨床的に急性腎不全と同義的に用いられる(標準腎臓病学129頁)。急性尿細管壊死の場合,無尿は稀である(内科学1743頁)。

(イ)急性腎性腎不全の徴候,検査,診断

血液検査所見上,クレアチニン[2](CRE,Cr)値上昇,尿素窒素[3](BUN)値上昇,カリウム[4](K)値上昇などを認めた場合,腎不全を疑う。

腎不全を疑ったならば,まずは急性か慢性かを鑑別する。この鑑別にあたっては,病歴(蛋白尿や血尿などの尿異常や高血圧の既往など)を確認するほか,超音波画像やX線画像で腎の大きさを確認することが大切である。慢性では腎臓が萎縮しているが,急性では正常かやや腫大していることが多い。

急性であれば,次に,腎性,腎前性,腎後性のいずれであるか,その原因は何であるかを鑑別する。この鑑別にあたっては,病歴(薬物治療,検査,感染症の有無など),理学所見(皮膚所見,高血圧,体重,浮腫,乏尿,尿所見,全身倦怠感,食思不振,悪心・嘔吐,中枢神経症状など)を確認する。このうち,とりわけ尿量が重要である。また,病歴ではクレアチニン値がいつから上昇したか,時系列的な変化を知ることが一番大切である。つまり,発症前の健康時におけるクレアチニン値や,上昇前後の出来事について詳細に調べる必要がある。さらに,血液では横紋筋融解症(後記イ)などの有無なども調べ,急性腎不全の具体的原因を診断する(以上(イ)につき,内科学1743頁,標準腎臓病学132乃至135頁,病気がみえるvol.8腎・泌尿器205頁)。

(ウ)急性腎性腎不全の治療,予後

急性腎不全の発症期においては,原因薬物があれば中止し,心不全や脱水があればその補正を試みる。また,維持期(発症期の次に到来する乏尿の時期)においては,腎機能が回復するまで代謝異常の改善に努める。腎機能障害や代謝異常が重篤であり,高カリウム血症[5](標準腎臓病学136頁によれば,6mEq/l以上の高カリウム血症)がみられる場合には,透析治療を行う。とりわけ高カリウム血症の管理,治療が最重要である。

透析療法が普及した現在でも急性腎不全の死亡率は50パーセント程度と高い。ただ,急性腎不全は,可逆的な腎機能障害であることが多いため,原因を取り除くとともに,透析療法によって体液の恒常性が保たれれば,腎機能が回復する可能性が高い。比較的早期に血液浄化療法を導入した方が予後がよい(以上(ウ)につき,病気がみえるvol.8腎・泌尿器204頁,標準腎臓病学135頁,内科学1743,1744頁)。

 

 

イ 横紋筋融解症

(ア)横紋筋融解症の病態

横紋筋融解症とは,種々の原因により骨格筋細胞が急激に破壊されることによって,ミオグロビン[6]などの筋細胞成分が血液中へ大量に流入し,急性尿細管壊死を惹起し,高率に急性腎不全を惹起する(病気がみえるvol.8腎・泌尿器204頁,医学大辞典)。

(イ)横紋筋融解症の徴候,検査,診断

    a 主訴

筋力低下,疲労感,筋痛
    b 他覚的所見

・筋力低下,筋肉圧痛,把握痛

・ミオグロビン尿(赤褐色尿)
    c 検査所見[7]

・血中クレアチンキナーゼ[8](CK,CPK)上昇,LDH[9]上昇,AST(GOT)[10]上昇,ALT(GPT)[11]上昇。このうち,血中クレアチンキナーゼ(CK,CPK)の上昇が最重要である。

    d 注意点

筋症状がある場合にはCK上昇の有無を必ず確認することが重要である。急性発症の場合には,ミオグロビン尿(赤褐色尿)[12]がCK上昇に先立つ場合があるので問診には注意が必要である。腎機能の評価が重要である(以上(イ)につき,重篤副作用疾患別対応マニュアル横紋筋融解症9,10頁)。

(ウ)横紋筋融解症の治療,予後

腎機能障害がない段階においては,輸液を速やかに行い,尿量を100ml/h以上に保つなど腎保護を図る。急性腎不全が進行した段階にあっては,血液透析を行って回復を待つが,腎障害が不可逆的である場合もある。治療開始時点で重症化していた場合には,いかなる治療を行おうとも,重篤な後遺症を残すか,不幸な転帰を辿ることになりかねない(以上(ウ)につき,重篤副作用疾患別対応マニュアル横紋筋融解症19頁)。

  


[1] 腎機能は腎血漿流量,糸球体濾過量(GFR),近位尿細管機能,遠位尿細管機能・集合管機能で評価されるが,臨床的には,GFRが腎機能の指標としてよく用いられる(「病気がみえるvol.8腎・泌尿器」126頁)。

[2] 血清クレアチニン:略称は,CRE又はCrである。腎機能の評価のために用いる。基準値は,男性の場合,0.65~1.09mg/dLである(「臨床検査データブック2011-2012」)。

[3] 尿素窒素:略称はBUNである。腎機能の評価のために用いる。基準値は,9~21mg/dLである(「臨床検査データブック2011-2012」)。

[4] カリウム:略称はKである。基準値は,血清中3.5~4.9mEq/Lである(「臨床検査データブック2011-2012」)。

[5] 高カリウム血症とは,血清カリウム値が5.0mEq/L以上の場合を指す。この5.0mEq/Lという値を上回っているもののうちには,排泄能の低下(腎不全),細胞内から外へのシフト(横紋筋融解症など),カリウム負荷があるほか,偽性高カリウム血症(治療を要しないもの)がある。のうちの腎不全が最も多くみられる疾患である。血清カリウム値が5.0mEq/L以上の場合,まずは溶血の有無,白血球増多(10万/μL以上),血小板増多(100万/μL以上)といった検査所見やヘパリン採血によって偽性高カリウム血症を除外する。真性の高カリウム血症に対しては,程度に応じ,種々の投薬,カリウム制限食,原因薬剤の中止,緊急透析などの処置を行う(病気がみえるvol.8腎・泌尿器94,95頁,今日の診断指針)。

[6] ミオグロビン:筋細胞の破壊や細胞膜の通過性亢進によって血中に流入する蛋白であり,心筋梗塞の診断の指標となる。基準値は,男性の場合,60ng/mL以下である(「臨床検査データブック2011-2012」)。

[7] この外,CT検査,MRI検査や筋生検などもある。ただ,CT検査及びMRI検査の所見は,特異性が低いため診断価値が少なく,経過観察に有用である(重篤副作用疾患別対応マニュアル横紋筋融解症9,10頁)。また,筋生検は急性尿細管壊死で透析治療を開始したが,4週間経っても尿量増加や改善傾向が見られないときに行う(標準腎臓病学134頁)。

[8] 血中クレアチンキナーゼ:略称はCK。クレアチンホスホキナーゼ(CPK)と同義である。心臓を含む筋疾患の診断,経過の把握の指標となる。基準値は,男性の場合,57~197IU/Lである(「臨床検査データブック2011-2012」)。

[9] 乳酸脱水素酵素:略称はLDH。肝細胞などの破壊,傷害及び悪性腫瘍の存在を疑う指標となる。基準値は,120~245IU/Lである(「臨床検査データブック2011-2012」)。

[10] AST(GOT):肝細胞,筋肉,赤血球からの逸脱酵素であり,これらの障害による疾患の検出,程度,経過把握の指標となる。基準値は,11~33IU/L/37である(「臨床検査データブック2011-2012」)。

[11] ALT(GPT):肝細胞からの逸脱酵素であり,肝胆道系疾患,特に肝疾患の検出,程度,経過把握の指標となる。基準値は,6~43IU/L/37である(「臨床検査データブック2011-2012」)。

[12] ミオグロビン尿:赤褐色尿(重篤副作用疾患別対応マニュアル横紋筋融解症9,10頁)。ミオグロビンの血中濃度が300~2,000ng/mLを超えるとミオグロビンが尿中に排出される(「臨床検査データブック2011-2012」)。