弁護士法人ALG&Associates

弁護士 金﨑 浩之


1 院内感染防止対策の不備(棄却例)

   横浜地判H24.5,24(判例3)

・除菌義務違反

集団感染が起こったという結果のみから、除菌措置が不十分だったというのは結果論に過ぎない。

MRSA感染児の隔離違反義務

感染児の発生には相当程度の間隔があり、MRSA感染児が続出しているといえるような状況にはなかった。→集団感染の具体的危険が発生していたとは言えない。

・保菌職員からの隔離措置義務違反

MRSAに関しては、保菌者の鼻腔等から直接飛沫感染する可能性はなく、保菌状態にある鼻腔等に触れた手指の消毒等を徹底していれば感染は避けられるはず→保菌者である医療従事者が、患者やその家族と接触したとしても、それを直ちに義務違反に当たるというのは相当ではない。


2 診断と抗
MRSA薬の投与開始時期

   横浜地判H24.5.24(判例3、MRSA同定前の診断・治療義務)

・起炎菌が同定される前でも、実際に感染例が発生しているMRSA感染を優先して考慮すべきである。

   名古屋高判金沢支部H24.4.18(判例4、MRSA同定前の診断・治療義務)

MRSA腸炎は治療のタイミングを逸すれば、急激に重症化し、多臓器不全になりやすい。→便培養でMRSAが確認される前でも、VCMによる治療を開始すべき(「抗菌薬使用の手引き」より)。

・便培養の検査結果には時間がかかる(3日程度)。→グラム染色(10分程度)でグラム陽性のブドウ球菌であることが確認できたら、MRSAの疑い強い(60%以上がMRSAと推定される)。→便培養でMRSAが確認されていなくても、抗MRSA薬を投与すべき(「感染症専門医テキスト」より)。

・激烈な下痢、発熱などの症状が術後早期にあれば重要な所見。そのような症例で便のグラム染色でグラム陽性のブドウ球菌が多数認められれば、MRSAと早期診断(「感染症診療のコツと落とし穴」より)。

MRSA腸炎を疑ったら、まずグラム染色を行い、グラム陽性ブドウ球菌が証明されれば、VCMの投与を開始すべき(「宮崎大学医学部付属病院HP」より)。

   東京地判H15.10,7(判例21MRSA同定前の診断・治療義務)

・通常の黄色ブドウ球菌感染の治療中に抗生物質が効かなくなってきた場合には、MRSAが選択されたものとして、MRSAと診断される前に有効な抗生物質に変更する必要がある。

   東京地判H23.3.30(判例5、MRSA腸炎の診断義務)

・原告が主張する時点で、MRSA腸炎を含む抗菌薬関連性腸炎によるものであると断定することは困難。

・現在多くの外科医がMRSA腸炎を経験しておらず、また、専門医の中にはMRSA腸炎という疾患の存在を疑問視する医師もおり、全国的に十分な教育が行われているとは言えない(被告側の医師供述)。

・被告病院では、院内で細菌検査を行わず、院外の検査機関に委託していた。しかも、被告病院が委託していた会社では、便のグラム染色は実施しておらず、仮にしていても検査の結果が判明するのに数日を要することが見込まれた。

・偽膜性腸炎が本件のような激烈な経過をたどって死に至るのは極めて希で、通常の偽膜性腸炎とは異なる原因を確定するのは困難(モデル事業結果報告書)。

※モデル事業結果報告書とは―

 医師及び弁護士21名から構成される東京地域評価委員会が作成。

 被告病院が本件の調査を依頼した。

   大分地判H21.10.1(判例6、MRSA腸炎の診断義務)

・高齢者(65歳以上)は、手術後、従前より鼻腔に常在していたMRSAが術後の胃管挿管により消化管内や気管内に入り、術後腸炎や肺炎を起こすなどMRSA感染症を発症しやすい。

・術後感染症の場合は、手術直後から高熱が持続するか、手術直後に上昇した熱が一旦解熱後再び上昇し、頻脈を呈し、多くはSIRS状態となる。→つまり、術後感染を疑う臨床所見が得やすい。

MRSA腸炎の臨床所見は、下痢、発熱、腹部膨満、イレウス、頻脈、白血球の増加又は減少、頻尿、脱水血圧低下。男性に多い。術後25日目までに発症しやすい。

・胃全摘手術後は、胃酸がなくなる関係で、他の手術に比べ、術後感染症が発生しやすい。

・劇症型MRSAとは、急激な循環不全、呼吸不全、全身状態の悪化を伴い、ARDSMOFを併発して短期間で死に瀕する病態。重度の血圧低下、頻尿、血清クレアチニン値・BUNの急激な上昇は、劇症型MRSAを疑うべき所見(鑑定結果)。

MRSAを含む感染症の発症を疑い、直ちに排液や血液等につき細菌検査を行うべき注意義務があった。

   東京高判H21.9.25(判例7、休診日と診断の遅れ)

・菌の同定、感受性試験なしに、強力な広域スペクトラムの抗菌薬が継続投与され、菌抗体の可能性があった(担当医がそれを危惧していた)。

※本件症例の特殊事情

検査が土日にさしかかり、第2土日が被告病院の休診日だったため、細菌検査の依頼を翌週にしてしまった。

・直ちに検査依頼をしなければ、検査工程が第2土曜日にかかり、同土曜日が被告病院の休診日であって検査が進行しないことは事前に分かること。→緊急を要する旨の依頼をすべき義務があった。

・もし緊急の検査依頼をしていれば、遅くとも翌月曜日の夕方までには検査結果(MRSAの検出、感受性の有無を記載した伝票)を得られたはず。

   東京地判H15.10.7(判例21、休診日と診断の遅れ)

・細菌検査の結果が判明するのに通常要する期間は5日程度であって、本件でそれより長い日数を要したのは、被告病院において第2土曜日が休診日であったという、人の生命・身体に関する医療とは全く次元を異にする偶然の事情によるものである。

  仮に菌の同定を713日の作業開始時間である午前9時から開始したとしても、遅くとも本件羊水の菌の同定、その後の感受性検査の判定結果を、その28時間後の714日(日)午後1時には出すことが可能であった。

   大分地判H21.3.26(判例8、敗血症の見落とし)

※褥瘡に対する局所的治療を怠った過失は否定され、敗血症の診断・治療の遅れとして過失が認められている。本件では、抗生剤が一切投与されていない。

・「患者に感染症を疑わせる徴候が表れた場合には、その診断、感染部位の特定、起炎菌の特定及び抗生剤の感受性判定のために、細菌培養検査及び薬剤感受性検査を行った上、感受性が確認された抗生剤を投与するなどの措置を講じるべき注意義務を負う」(最高裁平成1368日判決・判例タイムズ1073145頁)

・敗血症の概念をどうとらえるにせよ、…重度の全身感染症に適切に対応すべき状況にあったことは明らか。

・被告が敗血症の発症に疑問で、複数の細菌による全身感染の可能性を言うのであれば、なおさら血液培養検査等で起炎菌を確定するよう努めるべきである。

   東京地判H18.11.22(判例13、カテーテル感染の診断時期)

・カテーテル感染症の主症状は、突然の高熱。他の部位からの敗血症が原因を成った場合を除けば、突然の高熱で発症し、発熱以外の臨床所見に乏しい。

1日の差が1度以上の熱型。38度以上、時に39度以上。

・カテーテル留置中に他に明らかな感染病巣がなく、悪寒や戦慄を伴う弛張熱を呈した場合や、突然に39度以上の高熱となった場合には、カテーテル感染を疑う。

・カテーテル感染症に対する措置→原則として、速やかにカテーテルを 抜去する。抜去のみで改善し治癒する場合も多い。