弁護士法人ALG&Associates

弁護士 金﨑 浩之


〔調査解釈〕

   判決結果

原告(患者側)の勝訴率が60%にも及び、予想以上の結果であった。

俗に東京地裁医療集中部の認容率が20%を下回ることを考慮すると、特筆すべき認容率である。

   認容額

認容額は、660万円から1億を超えるものまで、幅広く分布している。

一般に損害賠償額が広範囲に分布するのは、死亡した患者の逸失利益の個人差が大きいこと、後遺症事例の後遺症等級も事例毎にことなること、事件当時の患者の年齢などにより介護費用も幅が出ることなどから、当然の結果と言える。

ちなみに、660万円という少額の認容額となった事例(判例12)は、因果関係の存否について、延命利益(死亡した時点において生存していた相当程度の可能性)を肯定するにとどまったことが理由である。認容された損害は死亡慰謝料のみであり、かつ相当程度減額されている。また、興味深い判例として、割合的認定を用いて損害額の6割を肯定した事例がある(判例3)。

なお、今回対象となった事例の中に、いわゆる説明義務違反に基づく自己決定権の侵害を主張するものはなかった。

   転帰

予想通り、死亡事例が75%に及び、それ以外も重篤な後遺症を残すもので、結果は重大なもので占められている。もちろん、結果が重大な方がより訴訟に持ち込まれやすいという側面は否定できないので、この調査結果から当然に「院内感染は重大な結果を引き起こす」とまで断ずることはできない。

  

 科については、外科系に集中している点が重要である。中でも、消化器外科が9件(45%)にまで達している点は興味深い。

また、カテーテル感染も一部含まれていたが、術後感染が目立った。

   菌種

 MRSAが高率であることは予想していたが、80%にも及んだのは驚きであった。少々乱暴かもしれないが、MRSA感染症を熟知する弁護士が院内感染訴訟を制すると言っても過言ではない。緑膿菌ですら10%にとどまっている。

 当初は、ペニシリン耐性肺炎球菌、バンコマイシン耐性腸球菌なども一定数含まれると予想したが、これらの菌種は皆無であった。

   争点

・院内感染防止対策の不備

    患者側にとって最も立証が困難な争点である。予想通り、この主張は全件排斥されている。

    しかし、予想外だったのは、この争点を主張する患者側代理人は意外に多く、35%に及んだ。主張の仕方の傾向としては、「院内で感染したのだから、医療機関に落ち度がないはずがない」的な結果責任追求型と、詳細かつ具体的に制度上の欠陥を羅列するが、重箱の隅をつつくようなあら探し型に分かれる。

・個別的予防措置違反

   「カテーテルの不適切な長期留置によって感染症を発症させた過失」として構成される主張が典型である。この主張も多く、55%に及んだ。この争点で認容された判例も36%に及んでおり、患者側としては一応検討に値する争点と思われる。但し、認容されるためには、ある程度感染経路を特定できることが必要である。

・診断・治療の遅れ

    予想通り、この争点が最も患者側にとって攻めやすい争点であり、主張件数も14件と最多(70%)であった。認容率も71%と高率である。

    この争点で過失が肯定されやすい理由としては、()臨床所見から感染症を疑うことができなければ診断も治療も始まらないこと、()確定診断・除外診断を確実に行える検査方法がないこと、()感染症の診断・治療に当たる医師たちが必ずしも感染症の専門家とは限らないことなどから、診断・治療のタイミングを逃してしまうことにあると思われる。

・抗菌薬の選択・投与ミス

    この争点は、最もマニアックな医学論争に陥りやすく、この争点を主張・立証する場合には、かなり掘り下げた検討が必要になると考える。というのは、今日数多くの抗菌薬が存在し複雑化していることに加え、薬剤耐性菌が増加していることなども考慮に入れると、専門家である医師の裁量が尊重されるべき領域と言えるからである。実際に、具体的な抗菌薬の選択・投与方法に関しては、医師の間で議論があることも少なくない。

    しかし、この争点を展開する原告代理人は意外と多く、40%に及んだ。そして、争点としての難しさを考えると、38%の認容率も決して低くはないと思われる。事案によっては検討されてもよい争点である。

・因果関係

    因果関係の認容率に関しては、判決結果と対応しており、論ずる実益はない。

    しかし、興味深いのは、過失は肯定されたにの因果関係が否定されたため原告が敗訴した事案が1件もなかったことである。割合的認定を用いた判例と延命利益を認めた判例各1件が損害額を減額したにとどまる。