弁護士法人ALG&Associates

弁護士 金﨑 浩之



Ⅰ 研究テーマ

 院内感染における裁判例の解析

〔目的〕

  院内感染は紛争件数も多く、医療事件を取り扱う弁護士として習熟すべき重要な分野のひとつと考える。

〔調査方法〕

 検索対象とした判例データベースは、「Westlaw」、「判例秘書」、「裁判所裁判例情報」の3つ。

 過去20年間を対象期間と設定し、「院内感染」というキーワードで検索したところ、

Westlaw99

・判例秘書-78

・裁判所裁判例情報-22

   重複している判例も多数存在するので調整が必要であり、また、院内感染と無関係な判例も混入しているので、それらを除外する必要あり。

   現在調整中であるが、調整後の最終的な裁判例は、80件前後の見通しである。

   時間の関係から、このうちランダムに選択された近時の裁判例20件を今回の報告対象とした。

〔解析条件〕

  ・院内感染としたのは、市中感染を除く趣旨である。したがって、院内で生じた感染症であれば、外因性のものであるか、内因性のものであるかを問わない。

  ・最も多いと予想されるMRSAに限定しない。

  ・細菌感染が最も多いと予想されるが、細菌感染に限定していない。したがって、真菌症やウイルス感染も含んでいる。

〔解析対象項目〕

 解析対象項目は以下の通りである。

   判決結果

・原告の請求が認容(患者側の勝訴)されたのか、棄却(医療機関側の勝訴)されたのか、その件数と割合を調べる。

・原告が一審で勝訴し、被告が控訴した事案で棄却判決が出た場合、判決結果は棄却であるが、原告が最終的に勝訴しているので、便宜上「認容」と表示した。なお、一覧性の便宜を図るため、認容例は青色、棄却例は赤色で表示した。

   認容された場合の認容額

   転帰

   所属の科

・所属の科と基礎疾患を明記した。

   原因菌である菌種

・感染症の起炎菌となった菌を明記した。混合感染の場合はその旨明記。

 なお、感染症の主原因ではなくても、検出された菌は参考として紹介した。

   争点

・院内感染防止対策に不備があったか。

・個別的感染予防措置は適切になされているか。

・診断・治療の遅れはあるか。

・抗菌薬の選択・投与方法に不適切な点はなかったか。

・結果との間に因果関係はあると言えるか。

※なお、各争点において、原告の主張が肯定されたものには○で、否定されたものには×で表記した。但し、因果関係において、割合的認定等による一部認容例は△と表記した。

〔調査結果〕

   判決結果

・認容(原告勝訴)-12件(60%)

・棄却(被告勝訴)-8件(40%)

   認容額

・範囲-660万円~125972548

・平均-51474409

※平均額が高額となっているが、1億円を超えるものが3件あり、これが平均額を挙げていると思われる。

※中央値は、約2500万円である。

   転帰

・死亡-15件(75%)

・後遺症-5件(25%)

※なお、後遺症事例は全て高額な認容となっており、軽度の後遺症事例はなかった。したがって、感染症の転帰としては、死亡又は重篤な後遺障害という重大な結果を招いていると言える。

  

・脳神経外科-1件(5%)

・循環器外科-3件(15%)

・消化器外科-9件(45%)

・小児外科-2件(10%、2件とも新生児MRSA敗血症)

・産婦人科-2件(10%、うち1件は新生児MRSA敗血症)

・皮膚科-1件(5%、重度熱傷)

   菌種

MRSA16件(80%)

・緑膿菌-2件(10%)

C.ディフィシル(偽膜性腸炎)-1件(5%)

・クレブシエラ-1件(5%)

・セラチア-1件(5%)

・カンジダ(真菌)-2件(10%)

※原因菌として同定された菌種が対象判例数(20件)を超えているのは、一部の事例で混合感染が含まれるからである。

   争点

・院内感染防止対策違反

  主張あり-7件(35%)、肯定-0件(0%)、否定-7件(100%)

・個別的予防措置違反

  主張あり-11件(55%)、肯定-4件(36%)、否定-7件(64%)

・診断・治療の遅れ

  主張あり-14件(70%)、肯定-10件(71%)、否定-4件(29%)

・抗菌薬の選択・投与方法のミス

  主張あり-8件(40%)、肯定-3件(38%)、否定-5件(62%)

・因果関係の存在

  主張あり-20件(100%)、肯定-12件(60%)、否定-8件(40%)