弁護士法人ALG&Associates

弁護士  金﨑 浩之


1 プロポフォール投与と死亡事故

 報道によれば、今年の2月、東京女子医大病院で、麻酔薬プロポフォールを投与されて幼児が死亡するという医療事故が起こったそうです。

 具体的には、首のリンパ管腫の手術を受けた2歳の男児がプロポフォールを投与されて死亡したという事件です。

 手術自体は無事終了したそうなのですが、どのような経緯なのか分かりませんが、この男児には、成人の基準の2.7倍の量が投与されたそうです。

 そして、この男児は、急性循環不全のため、そのまま一度も目を覚ますことなく亡くなったとか…。

 この麻酔薬は、集中治療室(ICU)で人工呼吸器をつけている小児に使用することは、添付文書上、禁忌とされています。

 社会保険研究所が発行している「投薬禁忌リスト・平成26年度版」を見ても、集中治療における人口呼吸中の小児には禁忌とバッチリ書いてあります。

 同書によると、集中治療中の鎮静にこの薬を使用した小児の死亡例が外国で報告されており、これを受けて禁忌とされた経緯があるようですが、因果関係は不明とされています。

 重篤な副作用としては、低血圧、アナフィラキシー、気管支攣縮、舌根沈下などのほか、重篤な除脈、収縮不全などの循環不全や心室頻拍、心室性期外収縮、左脚ブロックなどの不整脈が挙げられております。


2 東京女子医大のお家騒動

 通常の医療事件と異なり、この事件が大変興味深いのは、事件の発覚が内部告発による点です。

 報道によれば、平成26年6月5日、東京女子医大病院の医学部長らが会見を開き、麻酔薬プロポフォールの不正使用を認めたのです。

 そして、同月12日、東京女子医大の全理事、評議員、監事、顧問に対して退陣要求がなされるという事態にまで発展しているそうです。

 東京女子医大は、創立114年の歴史を誇る名門医大で、創立者一族に弓を引くクーデターであるとの見方もあるようです。


3 プロポフォールの問題は

 事件発覚のきっかけとなったのは、学内のお家騒動かもしれませんが、この東京女子医大事件は、プロポフォールをめぐる重大な医療事件に発展する可能性を秘めています。

 まず、東京女子医大に限って言えば、医療紛争に発展した場合、患者側に協力する医師が学内から出てきうるという点です。
 東京女子医大病院に責任あり!ということになれば、理事らを含む創立者一族を退陣に追い込む格好の攻撃材料になり得ますから。

 このような事情は、患者側の医療専門弁護士としては大変ありがたいし、都合がいい。

 通常、医療機関側を相手取って訴訟を起こせば、患者側にとっては協力医の確保が難しいばかりか、専門医や権威のある医師はこぞって医療機関側の擁護に走るからです。
 東京女子医大ほどの名門医大ということになればなおさらでしょう。

 この点からすれば、通常の医療事件よりは患者側にとってはやりやすいはずです。

 また、この事件は、東京女子医大のお家騒動にとどまらず、他の医療機関にも波及し、特にプロポフォール投与の死亡事件については、全国で医療紛争が起こる可能性も秘めています。

 なぜなら、禁忌薬の多くは相対的禁忌で、禁忌薬が投与されることは臨床でもしばしばあるわけですから、この薬を集中治療室の小児に投与していたのが東京女子医大だけとは考えにくいからです。
 似たような症例は、他の病院にもあるはずで、この事件が寝た子を起こすきっかけとなる可能性は十分あると見ています。

 医療事件を手がける弁護士としては目が離せない事件です。