1 混合診療とは

 今回のニュースは、読者の皆さんにとって大変利害があるので、ここで紹介しておきます。

 皆さんもご承知の通り、診療には、健康保険の適用がある保険診療と、健康保険の適用外となる自由診療とがありますが、この両方を抱き合わせた診療を”混合診療”と言います。

 例えば、抗がん剤治療で、厚労省に認可され保険が適用される診療に加え、まだ認可されていない診療も受けると、混合診療になります。

 この裁判の原告(上告人)は、癌の治療で、保険治療の対象になるインターフェロン療法に加えて、保険適用外の「活性化自己リンパ球移入療法」の治療も受けたそうです。この保険適用外の治療は、自己の体内にあるリンパ球、おそらくヘルパーT細胞とかキラーT細胞とかの免疫細胞だと思いますが、これを患者さんの体内から取り出して培養し活性化させる、そして、その活性化されたリンパ球にがん細胞を非自己と認識させて退治する、という一見理にかなった治療方法で、いわゆる先端医療のひとつに位置づけられておりますが、その臨床成績はまだ定まっていないようです。

2 問題の所在

 さて、話を元に戻しますと、本件のように、保険適用となる診療と適用外の診療を合わせて受けると、一般の人の素直な理解では、適用される部分に対しては保険が利用でき、適用外の部分に対しては全額自己負担となりそうですよね。

 ところが、違うんです。混合診療を受けると、適用外の部分はもちろん、本来適用される部分も含めて全体が自由診療扱いになり、何と患者の全額負担になる、というのが国の運用なんです。

 なぜ、「国の運用」かというと、混合診療の場合に関する明文規定が法律のどこにもないからです。明文規定がない以上、解釈の問題となり、その解釈のあり方は最終的には裁判所が決めるんですが、これまで国は、「混合診療を認めない」という法解釈の下で運用してきたわけです。

 実は、この混合診療、小泉内閣や福田内閣でも解禁を提言していたそうなんですが、厚労省と医師会が猛烈に反対したとか。毎日新聞(平成23年10月25日)によると、厚労省と日本医師会は、「患者に保険適用外の負担を求めるのが一般化すると、患者側負担が不当に広がる」などとして反対したそうなんです。

 これ、何言ってるか意味分かります?混合診療を認めないために、患者側負担が不当に広がっているのに、厚労省と日本医師会のロジックは、混合診療を認めると、患者側負担が広がると主張しているんですね。分かりにくいロジックですよね。

 ちょっと、私なりにその行間を埋めてみると、要するに、「混合診療を認める→多くの患者が混合診療を受けるようになる→保険適用外の部分が全額負担となるので、患者の負担が拡大する」、したがって、「混合診療を認めなければ、適用対象部分も含めて自由診療となり、患者側の負担が拡大→それを避けるため、患者は適用外の診療を受けなくなる→患者は保険適用となる診療しか受けないので、患者の負担は広がならい」という理屈なんでしょう。なんとまあ、ふざけた理屈でしょう。

 いずれにしても、この理屈に支えられた国の運用の法的合理性が問われたのが今回の裁判です。

3 裁判所の見解

 実は、この裁判、一審では患者が勝っています。
 地裁の判事も、「混合診療を認めない合理的理由が見あたらない」としたわけです。保険の適用は、診療や薬それぞれにポイントで点数化されており、明確に区別できるわけですから、何らの混乱も起こらない、と考えたわけです。もっともです。法律の専門家でなくても分かる理屈です。

 ところが、国側がこの判決に不服で控訴し、高裁で結論が覆り、患者側敗訴。そこで、患者側が上告したのがこの事件。

 最高裁は、「混合診療を認めると、その診療の治療効果が分からなくなる」ということを理由に、国の現在の運用にも合理性があるとして、患者側の主張を退けました(最高裁平成23年10月25日判決)。

 う~ん、さすがに最高裁も厚労省や日本医師会のような馬鹿げた屁理屈は展開してませんが、これも抽象的で分かりにくい理屈ですよね。

 最高裁の言いたいことを私なりの解釈で補足すると、「国が診療行為の一部について保険適用を認めているのは、認めている部分において治療効果が認められているからだ(裏を返せば、治療効果の分からない診療には保険を使うべきではない→混合治療を利用すると、保険適用となる診療と適用外の診療が混ざるので、治療の効果がいずれの診療の影響なのか分からなくなる→結果的に、診療行為全体の効果が分からなくなる→したがって、混合診療の全体が自由診療となる」というやや複雑なロジックになるのではないでしょうか。

 う~ん、でもこの理屈もなんだか誤魔化された感じがします。おそらく、最高裁の本音の部分は、もっと深い政策的理由にあるのではないでしょうか。

 つまり、もし混合診療を広く認めてしまうと、混合診療を受けたいと考える患者さんは増加すると思うんですね。これが増加するとどうなるのか、おそらく厚労省による認可の信頼性が落ちてくると思うんです。もし混合診療で病状が改善した場合、患者さんは、その保険適用外の診療行為が効いたに違いないと考えるはずです。本当のところは分からない、本当は保険適用となる診療行為のおかげかも知れないのに、患者はそうは考えない、適用外の診療がよかったに違いないと考えます。そのためにわざわざ全額自己負担で選択しているわけですから。

 そうすると、保険が適用されなかった部分について、患者が全額負担するわけですが、このような優れた診療に対して保険を使えないのはおかしい、と患者は考えるようになるはずです。いつまでも認可しない厚労省に問題があるという話になり、強い非難の矛先が厚労省に向かう。

 だったら、そんな余計なことはしないでくれ、保険適用となる診療だけおとなしく受けろ!ということになります。まあ、このあたりが本音でしょうね。

 いずれにしても、ふざけた話で私もこの判決には大変不服です。

 ちなみに、薬や診療に対する国の認可に要する期間は、アメリカでは平均約1年半なのに対し、日本では約4年かかるそうです。
 これだけのタイムラグがあると、癌のような深刻な病気の場合、これだけでも命取りになってしまいますね。