証拠収集2

 前回は、情報開示請求制度を利用した証拠収集方法の紹介をしました。手軽に行えるという利点がある反面、小規模医療機関が法律上は対象とされていない、看護師当番票等患者の個人情報以外の資料が除外される恐れがある、不開示事由にあたるとして開示拒否もありうるといった不利な面もあることをお話ししました。
 (前回の記事はこちら:カルテ等の収集

 実はそれだけではなく、情報開示請求制度の場合、開示までの時間的制限の定めもないため、しようと思えばいくらでも診療録等の破棄、改ざんができるわけです。もちろんそんなことをすれば、証明妨害行為とされ、患者の主張が通ることになりかねません(民事訴訟法224条類推)。

 しかし、改ざん等をしたことを患者側で立証できなければ、その改ざんした後のカルテこそが真のカルテとして判断されます。実際には、この立証は容易ではなく、巧妙に書き換えた場合のみならず、本来スペースのないところに後から無理矢理小さい字で書き込んだ跡が見え見えというようなカルテでさえ、改ざんの主張が通らなかったという事例もあります。

 つまり、カルテ等の記録は、医療機関にとっても患者にとっても、生命線といえる程の重要性を持つので、医療機関はそこに不利な情報が書かれていれば、裁判で負けた場合のことの重大さを予測して、なりふり構わぬ行動(破棄、改ざん)に出てくる可能性が十分あるのです。そのような行為をされてからでは、患者側としても極めて戦いにくくなるというのが現状です。

 だから、医療紛争においては、証拠保全をしておくということが、何よりもまず重要な手続となってくるのです。たしかに、証拠保全制度を利用しても、証拠保全申立までに既に紛争を予想して改ざんされていたり、そうでなくとも証拠保全決定を医療機関に送達してから、保全手続開始まで1時間程度のタイムラグは生ずるため、改ざん等の恐れがゼロとはいえません。

 しかし、医師業務の忙しさは想像以上であり、特に大病院などでは、繁忙業務の中、何らのカルテ開示請求等もなされていない過去の患者ひとり一人を気に留めている余裕はありません。したがって、一般に改ざんの恐れは、カルテの開示を求める行為を契機として生ずると考えてもよいかもしれません。

 すると、次の懸念は、決定書送達によって、証拠保全がなされることを知ってからの1時間のタイムラグです。この短い間の改ざん等まで心配するのであれば、決定書を執行官が病院に送達する際、患者側代理人として弁護士が一緒に付いて行き、病院に頼んで保全手続開始までそこで待たせてもらうという方法があります。万全を期すのであれば、その間の改ざん等があっては意味がないという保全手続の趣旨を説明し、室外で待機する場合、中の様子を、持参したデジカメ等で動画記録することの許可を申し出てもよいかもしれません。

 なお、証拠保全決定の送達については、執行官が病院に行って決定書を手渡ししてくる執行官送達以外にも、郵便による送達があります(民事訴訟法99条)。しかし、証拠保全制度の趣旨から、郵便による送達は考えられないので、執行官送達を前提にお話ししました。

 また、送達に関して注意すべきこととして、事前に医療機関の定休日等を調査しておく必要があります。病院自体が閉まっていて、決定書の送達ができず、やり直しというだけならまだしも、個人病院で妻等同居人が決定書を受け取ってしまうと(民事訴訟法106条1項)、目も当てられません。医師は不在で当日、保全手続はできないのに、決定書の送達はされているので、証拠保全の目的が失われることになります。

 ちなみに、執行官から聞いた話ですが、個人病院等で保全の相手方が医師個人であった場合、初めに本人確認をするそうです。手続の説明から話すと、明らかにその医師本人であるのに、本人でないと偽って受領を拒絶することがあるからとのことです。本人確認した後に拒んだ場合は、決定書をその場に置いてくれば送達したことになるため、問題は生じません(民事訴訟法106条3項 差置送達)。

 もちろん、本人ではないと言い張っても、他の従業員や同居人等書類の受領につき相当のわきまえのある者に対して交付することはできます(民事訴訟法106条1項2項 補充送達)。しかし、医師本人がいないので、カルテ等の場所もわからず出しようがない等開き直られると、結局その日は保全手続ができず、送達だけがなされた前述の例と同様の事態が生ずることになります。