死亡を例にとり、考え方の枠組みを簡単に示すと、次のようになります。

1.検査、治療(手術、投薬)、転医といった一般の過失

(1)
 仮に過失がなかったとすれば損害の発生(死亡)を回避しえた高度の蓋然性(※平たく言えば、8割程度の確実さ、と理解するのがわかり易いと思います。)があるとまでいえる場合には、逸失利益まで含め、死亡によって発生した損害の賠償を請求できる。

(2)
 仮に過失がなかったとすれば損害の発生を回避しえた相当程度の可能性(※平たく言えば、8割には満たないまでも「それなり」の確実さ、と理解するのがわかり易いと思います。)があるといえるにとどまる場合には、生存についての相当程度の可能性が奪われたことによる精神的損害としての慰謝料やこれを請求するための弁護士費用を請求できるにとどまる。

 なお、判例が、相当程度の可能性があるにとどまる場合に賠償を認める損害は、死亡又は死亡に準じる重大後遺症に限られ、それに至らないものについては、相当程度の可能性による賠償を認めていない。

2.説明義務違反という過失

(1)
 仮に説明がなされたとすれば、(手術実施に同意しなかった高度の蓋然性があり、かつ、)手術実施による損害の発生(死亡)を回避しえた高度の蓋然性がある場合には、逸失利益まで含め、手術実施によって発生した損害の賠償を請求できる。
 ただ、実際には、その説明を与えられていれば手術実施に同意しなかった、とまで立証するのが困難なことが多い。

(2)
 仮に説明がなされたとすれば、手術実施に同意しなかった高度の蓋然性がある、ただ、手術実施による損害の発生(死亡)を回避しえた相当程度の可能性があるにとどまる、という場合には、説明の上で手術実施に同意するか否かを決定する自己決定権(人格権)を侵害したものとして、精神的損害の賠償を請求できる。
 ただ、この精神的損害の額の算定について確立した基準はないものの、一般にはそれほど高額にならない。

(3)
 仮に説明がなされたとすれば手術実施に同意しなかった高度の蓋然性があるにとどまる場合には、説明の上で手術実施に同意するか否かを決定する自己決定権(人格権)を侵害したものとして、精神的損害の賠償を請求できる。
 ただ、この場合の損害の額が高額にならないことは同様である。

3.まとめ

 このように、説明義務違反という過失とそれ以外の過失とで大きく区別することができます。

 法律相談を受けていると、医師から十分な説明がなかったことを問題視なさる方を大勢見受けます。
 しかし、上記2のとおり、説明義務違反を追及して高額の賠償を得ることはなかなかに難しいため、われわれ患者側弁護士は、説明義務違反以外の過失がないかをまず検討しています。