弁護士 井内健雄 

 ア 裁判例

裁判所は、急性硬膜外血腫に罹患した患者について「病院に留めて経過観察をせず帰宅を許可したことにつき、医師の処置判断としてはやや安直すぎるものといわざるを得ず、この点に過失がある。」と判示しています。

また、「仮に」「帰宅させるのをやむを得なかったとしても、硬膜外血腫においては、脳内出血が存しても当初相当期間意識清明期が存在することがあることが特徴であり」「事故後に意識が清明であっても、その後硬膜下血腫の発生に至る脳出血の進行が発生することがあること、その典型的な症状は、意識清明後の嘔吐、激しい頭痛、ぼんやりしてその応答がはっきりしなくなる、異常に眠たがる(傾眠)、睡眠時にいつもより激しい鼾、流涎がある、呼んでも目覚めない等であることを具体的に説明して当該患者ないしその看護者に、右症状が現れる本件事故後少なくとも約六時間以上は慎重な経過観察と、右症状の疑いが生じたことが発見されたときには直ちに医者の診察を受ける必要があること等の教示、指導するべき義務が患者を帰宅される場合には存する」と判示しています(東京高判H10・4・28)。

 

イ 医学的知見

   また、標準脳神経外科学(医学書院・2011年)には、次のような医学的知見が示されています。

(ア)概念

    急性硬膜外血腫は、頭部打撲後に頭蓋骨と硬膜の間に生じる血腫である。中硬膜動脈の損傷により生じることが多いが、動脈洞、頭蓋骨の板間静脈の損傷により生じることがある。

    血腫は頭蓋骨内面と硬膜との付着を押し広げる形で形成される。

 (イ)臨床上の問題点

    急性硬膜外血腫の典型例では脳実質の損傷がなく、血腫による脳圧迫のみが問題となるため、早期に血腫を除去すれば生命予後、機能予後ともに良好である。逆に、診断と治療が遅れれば、頭蓋内圧亢進により脳ヘルニアをきたして予後は不良となる。

    受傷当初は意識清明で脳の局所症状もない場合、血腫の発生を見過ごしやすい。手術が必要になる症例のほとんどは受傷後早期(30分~1時間)での頭部CTで血腫がみられるが、たとえ入院後最初のCTで頭蓋内に異常がなくとも、その後急速に血腫が増大することがあるため、意識レベルの厳重な観察と継時的なCT検査が重要になる。

 (ウ)症候と診断

    意識清明期を経て数字時間以内に急速に意識レベルが悪化する場合と、血腫の急速な増大あるいは急性硬膜外血腫や脳挫傷などの合併により受傷初期から昏睡状態のこともある。また、頭皮の損傷(皮下出血、擦過創、挫創)が血腫部位に一致して見られる。

    症状は頭蓋内圧亢進症状が主体であり、初期意識障害から回復すると強い頭痛を訴え、嘔吐もみられる。瞳孔不同は脳ヘルニアの進行を示す重要な徴候である。

    中硬膜動脈や静脈洞を横切る頭蓋骨骨折が90%の症例で認められる。もっとも、骨折のない例は若年者に多い

 (エ)治療

    血腫の部位と広がりに応じて、開頭手術により血腫除去を行います。血腫全体が術野に入るような大きさの開頭を行い、硬膜外の血塊を除去し、出血源を確実に止血する。血腫が存在した部位の硬膜に吊り上げ縫合を行い、血腫の際貯留を防止します。

    症状の進行が急速で病院到達時にすでに瞳孔不同、両側瞳孔散大などを呈している場合には、救急処置室での穿頭術により血腫の部分的除去を行って応急的に頭蓋内圧の減弱を図っておき、その後手術室に担送して根治的な手術に移行することがあります。

 (オ)予後

    急性硬膜外血腫では、時期を失さず血腫を除去すれば一般に外傷性頭蓋内圧出血のなかでは比較的予後がよい特に、意識清明期のあるような症例では予後は極めてよい。逆に、診断の遅れや治療のタイミングを失すると重篤な後遺障害を残すことになる。