1.鑑定

 鑑定とは、裁判官の判断能力を補うために特別な学識経験を有する者が裁判所からの依頼により専門知識や経験則、事実判断を書面または口頭により報告させる証拠調べのことをいいます(民訴法212条以下)。

 医療訴訟は、裁判官が通常備えているはずの知識や経験則だけでは医療行為の適法性を判断することが困難な典型的な専門訴訟です。

 このため、専門的な医学的知見や経験則などを医師などの鑑定人に報告させて裁判官の判断能力を補うことを目的として鑑定が行われることがあります。

2.鑑定の申出

 鑑定が行われるためには、裁判官の職権ではなく当事者からの申出が必要です(民訴法180条)。
 当事者から鑑定の申出を受けた裁判所は、裁量で鑑定を採用し(民訴法181条1項)、裁判所が鑑定人を指定します(民訴法213条)。
 当事者は、鑑定を申出場合には鑑定を求めたい事項を記載した書面を裁判 所に提出する必要があります。
 裁判所は、この書面に拘束されず相手方の当事者の意見も聴きいたうえで最終的に鑑定事項を定めます。

3.鑑定費用

 鑑定費用としては、平均的な金額としては数十万円くらいですが、複雑な事案や多岐にわたる事項について鑑定が必要となる場合には100万円を超えることもあります。
 鑑定費用は鑑定の申出を行う当事者が予納することになりますが、実際は当事者双方から申出が行われることが多く、この場合には折半となります。

4.鑑定の方式

 一般的な鑑定方方式としては、裁判所が1人の医師を鑑定人として選任したうえで訴訟記録等を鑑定人の医師へ送り鑑定書を作成してもらう方式で行われます。

 東京地裁や大阪地裁の医療集中部ではアンケート方式の鑑定、複数の鑑定人により1通作成または複数通の鑑定書が作成される方式の鑑定、複数の鑑定人が集まり議論をしたうえでそれぞれの鑑定人の見解を口頭で述べる方式の鑑定が試みられることがあります。

5.医療訴訟において鑑定を求めるべき場合

 一般的な医学的知見や経験則については、医学文献などの書証により立証を行うことが可能ですので、原告は積極的に裁判所に提出して立証活動を尽くすことが可能ですし、そうすべきです。

 しかし、争いとなっている具体的な事案において具体的に行われた医療行為が医療過誤にあたることを立証するためには一般的な医学的知見や経験則が記載された医学文献等だけでは不十分です。

 もちろん、医学論文や専門雑誌にあたれば特定の疾病や症例に特化して詳細にまとめられた研究報告や統計などを入手することは可能です。

 しかし、訴訟で問題となっている事例と全く同じ事例はありませんので、どうしても当該事例に限った医学知見や経験則が必要となる場合があり鑑定が不可欠となることがあります。

 このように鑑定以外の証拠だけでは訴訟で問題となっている医療行為の適否を決定できない場合に鑑定の申出を検討することが正しいといえます。

6.鑑定をめぐる判例

(1)最判平成18年11月14日判時1956号77頁

 複数の医師の意見書の各内容を十分に比較検討する手続をとらずに、ある医師の意見書を主たる根拠として医師の過失を否定した原審の判断に採証法則に反する違法があるとして原判決を破棄して差し戻した判例です。

(2)最判平成11年3月23日判時1677号54頁

 客観的資料を精査したうえでされたものか疑問のある鑑定結果等に依  拠して、患者に発生した血腫の原因が手術にあることを否定した原審の認定判断には経験則ないし採証法則違背の違法があるとして原判決を破棄して差し戻した判例です。

弁護士 藤田 大輔