前回は,TOLAC(帝王切開の既往がある妊婦が経膣分娩を試みること)について書きました( 
http://avance-iryou.doorblog.jp/archives/37054701.html )。
 

今回は,TOLACが失敗した事案についての裁判例,具体的には,帝王切開既往のある妊婦について,予定帝王切開による分娩とせず,経膣分娩を試みたものの,子宮破裂し,児が死亡するに至った事案に関する裁判例を1つ紹介します。

 
 

東京地判平2年3月12日(判タ734号210頁)


●分娩の日●

昭和59年1月20日

 

●結果●

母,子宮破裂

児,死亡(死産)

 

●経過●

【午後0時頃】陣痛自然発来

【午後1時過ぎ】入院

【午後5時頃】医師が帰宅し医師が一人も在院しない状況に

【午後7時40分】子宮口全開大

【午後8時過ぎ頃】医師に架電するも応答せず

【午後9時過ぎ頃】胎児心拍数低下

【午後9時15分頃】分娩進行せず,早く娩出させて欲しいと母が要請,助産師が医師に架電するも,一人は応答なし,他の一人は応答しオキシトシンによる陣痛促進を指示。

【午後9時15分過ぎ】医師の指示に従いオキシトシン投与開始

【午後9時30分頃】胎児心拍数が陣痛終了後1分以上回復しない状態が現出

【午後9時40分頃】胎児心拍数低下が顕著に,それまでとは異質の強い痛みが現出

【午後9時45分頃】胎児心拍数回復しない状態が顕著に。医師に架電し児頭が下がってきたが怒責が入らず分娩が進行しないことを報告(児心音の乱れについては報告せず)。医師は吸引分娩の準備を指示。

【午後9時55分頃】児心音乱れへの対処として酸素吸入開始

【午後11時】医師が来院,吸引分娩を3回試みるも娩出できず

【午後11時10分】緊急帝王切開決定,オキシトシン投与中止,ブドウ糖点滴投与開始

【午後11時30分】手術室へ転室

【翌日午前0時頃】執刀開始,子宮破裂と胎児脱出を確認

【翌日午前0時8分】胎児を娩出するも既に死亡

 

●裁判所の判断●

【過失1】帝王切開既往のある場合に経膣分娩をするときには,子宮破裂が起こりやすく,胎児死亡や母体死亡が起こりやすいので,帝王切開の準備をしたうえで分娩状況の異常を監視するべきであるにも拘らず,医師が在院せず,これを怠った。
 

【過失2】帝王切開既往のある場合にオキシトシンを投与するときは,過強陣痛による子宮破裂や胎児仮死が起こりやすいので,オキシトシン投与をするとしても,分娩監視装置によって陣痛や胎児心拍等を監視して過強陣痛を招かないように注意して投与をし,過強陣痛が疑われれば直ちに投与を中止するべきであるにも拘らず,投与前の診察をせず,また,投与後には助産師と看護師のみによる不十分な監視しかせず,これを怠った。
 

【過失3】分娩状況を監視し子宮破裂等の危険が認められた時点で直ちに帝王切開に切り替えるべきであるにも拘らず,医師が在院せず,これを怠った。
 

上記の【過失1】及び【過失3】と子宮破裂,胎児死亡の間の因果関係がある。

損害額は1000万円である(請求額3000万円)。

 以上