今回は,異所性妊娠(旧称:子宮外妊娠)の殆どを占める卵管妊娠について,医学的知見の概略を記しておきます。

卵管妊娠は,そのまま放置しておくと,卵管破裂を起こしかねず,ひとたび卵管が破裂すれば,卵管切除に至ることが少なくありません。また,卵管破裂に伴う出血性ショックのために母体が死に至ることもあります。

もっとも,現在では,卵管妊娠の疑いが生じた段階で速やかに適切な検査をすることによって卵管妊娠を発見することができ,速やかに適切な治療をすることによって卵管破裂を回避できることが多いようです。

ところが,実際には,医師が卵管妊娠の徴候を見逃して検査・治療を怠り,結果的に卵管破裂,卵管切除に至る事案があります。

当事務所では多数の医療案件を扱っておりますが,卵管破裂の相談も一定数寄せられています。

 

 

定義

異所性妊娠(旧称,子宮外妊娠)とは,受精卵が子宮腔以外の場所に着床した状態をいう。

通常の着床が子宮体部の前壁ないし後壁,とりわけその上半部に起こるのと異なることからこのように指称される。

 

 

発症頻度

発症頻度(子宮腔以外の部位に着床する確率)は,全妊娠の約1%である。

 

 

分類

異所性妊娠は,卵管妊娠(約98%),腹膜妊娠(約1%),卵巣妊娠(約0.2%)及び頸管妊娠(約0.2%)に大分される。

そして,卵管妊娠は,卵管膨大部妊娠(約80%),卵管峡部妊娠(約12%),卵管間質部妊娠(約2%)及び卵管采妊娠(約6%)に細分される。

つまり,異所性妊娠の殆どが卵管妊娠である。

 

 

原因

頻回の人工妊娠中絶,骨盤内感染症,既往帝王切開,体外受精,性感染症(クラミジア,淋菌感染症など)など。

 

 

症状

無月経ないし月経遅延,不正性器出血,下腹部痛(急性腹症も)。

放置しておくと,卵管流産や卵管破裂に至ることがある(卵管流産や卵管破裂は妊娠6週が最も多い)。

破裂等した場合には,急性腹症を呈し,腹腔内出血のためショック状態に陥ることがある。出血多量で死に至ることもある。

このようなリスクの重大性に鑑みれば,本疾患の疑いが生じた段階で早期に検査すべきであり,検査の結果,本疾患の確定診断が得られたならば早期に適切な治療をすべきである。詳細は以下のとおりである。

 

 

本疾患を疑う徴候

以下の①又は②があれば,異所性妊娠を疑う。①及び②があれば,異所性妊娠を強く疑う。

 

①無月経(月経遅延),不正性器出血,下腹部痛などがある。不正性器出血や下腹部痛はないこともある。

②妊娠4週以降,hCG測定にて妊娠反応陽性(妊娠5週以降,hCG値1,000 IU/L以上)である場合において,妊娠5週以降,経膣超音波検査にて子宮腔内に胎嚢(GS)を認めないときや,子宮外に胎嚢様構造物を認めるときや,ダグラス窩液体貯留を認めるとき(卵管流産や卵管破裂の場合,腹腔内への出血は最も低い位置にあるダグラス窩に貯留する)。

※なお,正常妊娠の場合,妊娠4週目以降にはほぼ妊娠反応陽性になり,妊娠5週には経膣超音波検査で子宮内に胎嚢が確認される。

 

 

確定診断

・超音波検査

超音波検査によって子宮外に胎嚢又は胎児(胎芽)を確認できた場合や胎児心拍を確認できた場合には,異所性妊娠と確定診断できる。ただ,そのような場合は1,2割にとどまる。

注意すべきは,超音波検査の結果,付属器領域に腫瘤像を認めても,それが黄体嚢胞などであったり,ダグラス窩に血液貯留を認めても,それが卵巣出血や流産によるものであったりするということである(ダグラス窩穿刺は診断特異性が低い)。また,子宮に胎嚢によく似た所見(偽胎嚢)をみることもある。

 要するに,超音波検査によっては確定診断できないことも少なくない。

 

・腹腔鏡検査

腹腔鏡検査を行えば,殆どの場合で確定診断を得られる。

 

 

鑑別疾患

異所性妊娠との鑑別を要するものとして,①肥満や子宮後屈で子宮内の観察が困難な場合,②卵巣出血,③流産,④胎嚢の検出ができないごく初期の妊娠,及び⑤妊娠に伴う黄体嚢胞などがある。

①は経膣超音波検査によって,②は低単位のhCG測定によって,③はhCG値の漸減傾向や子宮内容の組織検査にて絨毛が確認されることによって,④はhCG値の漸増傾向によって,⑤については子宮内妊娠の確認によって,それぞれ鑑別される。

なお一時点での診断が困難な場合には経時的に検査を反復する。

以上の諸検査で異所性妊娠を否定できなければ,腹腔鏡検査を施行して診断を確定する。

 

 

治療(卵管妊娠)

●卵管破裂

抗ショック療法+緊急手術(腹腔鏡での卵管切除術など)。

●卵管未破裂

全身状態,着床部位,挙児希望の有無等によって療法を決する。臨床症状が殆どなく,hCG値が1,0002,000 IU/L以下で上昇がないときは,待機療法(経過観察)もありうる。

○挙児希望がない場合 →卵管切除術,子宮全摘術など。

○挙児希望がある場合 →卵管線状切開術,卵管圧出術,メトトレキサート(MTX)投与(筋注または局所投与)など。

なお,この場合において,卵管線状切開術の適応があるのは,腫瘤径5cm未満,hCG値10,000IU/L以下,初回卵管妊娠,胎児心拍陰性が揃うときである。また,メトトレキサート投与の適応があるのは,腫瘤径3,4cm未満,hCG値3,0005,000 IU/L以下のときである。

 

 

参考文献

・岡井崇・綾部琢哉編「標準産科婦人科学」327乃至330頁(医学書院,第4版,2011)

・医療情報科学研究所編「病気がみえるvol.10産科」84乃至89頁(メディックメディア,第2版,2009)

・「今日の診断指針」(医学書院,第6版)

・「今日の治療指針」(医学書院,2011年版)

・「今日の治療指針」(医学書院,2010年版)

 以上