はじめまして。今回から医療過誤ブログを執筆することになりました井内健雄です。

 証拠保全のテーマについては以前に同僚弁護士が書いていますので、そこで掲載された「広島地裁昭和61年11月21日決定」を踏まえて、証拠保全のために患者側がすべきことについて書いていきます。

 単刀直入に言いますと、患者側がすべきことは、治療に不信感を抱いた場合は、医師に説明を求めた際、医師が説明をしたか、していなかったか、した場合にどのような回答をしたかのメモや録音を残しておくということです。

 なぜ、メモや録音を残しておくとよいかについて、医療過誤で損害賠償請求を検討する際にする選択肢の一つである証拠保全とその証拠保全の必要性に関する決定を踏まえて説明していきます。

 医療過誤で損害賠償請求をする場合の証拠には、診療記録全般、具体的には、カルテ、看護記録、検査記録、手術記録、病理記録、カンファレンス記録、事故調査記録、指示簿、病棟日誌や、レントゲン写真、エコー写真、MRI画像、CT画像、診療報酬明細書(レセプト)等が考えられます。しかしこれらの証拠は、医療機関側に存在する証拠で、医療機関が開示を拒むことも考えられます。また、医療機関が自己に不利な証拠を改ざん・廃棄する可能性も存在します。

 そこで、打つ手段の一つが、今回テーマにしている「証拠保全」(民事訴訟法234条)です。証拠保全は、訴えの提起前に裁判所に申し立てることができます(同法235条2項)。証拠保全をすることにより、カルテが改ざんされるのを防ぐこと、そしてさらに、そこで得られたカルテを検討して実際に訴訟を起こすかどうか検討することができます。

 ただ、証拠保全をするには、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」(民事訴訟法234条)が必要であり、「証拠保全の事由は、疎明」(民事訴訟規則153条)しなければなりません。

 そして、広島地裁昭和61年11月21日決定(判例タイムズ633号221頁)によると、

「疎明は当該事案に即して具体的に主張され、かつ疎明されることを要すると解するのが相当であり、右の理は診療録等の改ざんのおそれを証拠保全の事由とする場合でも同様である。」

 とした上で、

「人は、自己に不利な記載を含む重要証拠を自ら有する場合に、これを任意にそのまま提出することを欲しないのが通常であるからといった抽象的な改ざんのおそれでは足りず、当該医師に改ざんの前歴があるとか、当該医師が、患者側から診療上の問題点について説明を求められたにもかかわらず相当な理由なくこれを拒絶したとか或いは前後矛盾ないし虚偽の説明をしたとか、その他ことさらに不誠実又は責任回避的な態度に終始したことなど、具体的な改ざんのおそれを一応推認させるに足る事実を疎明することを要する。」

 としています。

 以上のように、本決定は、診療録等の改ざんのおそれを証拠保全の事由とする場合でも、具体的に主張し疎明することが必要としています。もっとも、抽象的な改ざんのおそれでは足りないとしながらも、具体的な改ざんのおそれを一応推認させるに足る事実を疎明することを要するとしています。

 この決定で重要なポイントは、「具体的な改ざんのおそれを一応推認させるに足る事実を疎明」すればよいということです。改ざんのおそれを推認させる事情の疎明で足りることにより、立証は比較的しやすくなったと考えられます。

 では、この判例を踏まえて、患者側としては、いかなることに注意をすべきであるかという点から説明します。

 そして、患者側は、決定が挙げるように、「当該医師が、患者側から診療上の問題点について説明を求められたにもかかわらず相当な理由なくこれを拒絶したとか或いは前後矛盾ないし虚偽の説明をしたとか、その他ことさらに不

 誠実又は責任回避的な態度に終始したことなど」の疎明をすればよくなりました。これらの事実を疎明することにより、具体的な改ざんのおそれが推認されることになります。

 したがって、患者側としては、治療に不信感を抱いたときは、医師に説明を求めた際、医師が説明をしたか、していなかったか、した場合にどのような回答をしたかをメモや録音を残しておくとあとで、この疎明に利用できることになります。

 メモを残す場合に注意することは、具体的にメモをするということです。どのような質問に対して、どう説明したかなど具体的にメモを残してください。重要なことは、自分で医師の説明で医療過誤に関連するかどうか判断しないということです。患者の方が、関係ないと判断した内容でも重要な説明であるということは十分にあり得ることだからです。関係があるかないかは、事後的に弁護士が判断してくれます。この観点から、メモをするよりも、録音の方がよいです。ただ、録音をしても音が十分に聞き取れない可能性もありますので、併せてメモを残すとよいです。

 また、メモ・録音を残した際には、メモ・録音をした日付を入れておいて下さい。複数回メモ・録音した場合には、日付から前後関係が分かりますし、弁護士に相談に行く頃には、メモ・録音をした日から数か月と月日が経過し詳細に思い出せない可能性があるからです。

 しっかりメモや録音を残せば、後で医療機関に損害賠償請求をしようと考えた場合に、このメモを持って弁護士の元に相談に行けば、話がスムーズになると思われます。

 以上より、万一、治療に不満を持たれた場合には、医師の説明をメモ及び録音をするべきであるというのが弁護士としてのアドヴァイスです。