前回の記事はこちら:救急医療(1)救急医療における医療水準について(総論)

1、問診における注意義務

 問診行為は医師が患者の様態などを把握しその後の診療方針を立てるために必要かつ重要な行為であるため、医師には迅速かつ正確に問診を行うべき問診義務があります。

 自身の疼痛や苦痛をもっとも把握しているのは患者本人であるため、医師は直接患者本人に問診を行うことが望ましいことは言うまでもありませんが、救急搬送されてくる患者の中には、交通事故により重傷を負い意識が無いまま搬送されてくる者や、自宅で意識を失って倒れているところを家人に発見されて搬送されてくる者など、意識を失っていたり意識がもうろうとしている者も少なくなく、患者本人に対する問診が十分に行えない場合があります。

 このような場合には、医師は患者の家人や付添人などに問診を行うべき義務を負います。

問診義務をめぐる裁判例

①仙台地判昭和63年6月28日判時1299号128頁

 交通事故による受傷者が腸管破裂を原因とする穿孔性腹膜炎により死亡したことにつき、医師に適切な経過観察を怠った過失があるとされた事例

②東京地判平成18年7月13日

 転倒により救急車で病院に搬送された患者が、左大腿骨頚部骨折、骨盤骨折の疑いありとの診断で入院したものの、数時間後に意識レベルが低下し、頭部のレントゲンとCT検査を施行した結果、患者に頭蓋骨骨折、硬膜下血腫、脳室内出血が確認され、脳神経外科がある他院に転送されて開頭血腫除去術を受けたが患者が死亡したことにつき、医師が事故態様等についての詳細な問診を実施していれば、患者が外傷性健忘に陥っており、頭部外傷の疑いが残ることを容易に認識することができ、頭部のレントゲン検査ないしCT検査が実施されることになったであろうことが認められるとして医師の問診義務違反を認めた事例

2、検査における注意義務

 医師は、救急患者に対する問診だけではなく、バイタルサイン(生命徴候)や血液検査、尿検査、心電図検査、レントゲン撮影、CT検査などを行い、患者の状態を客観的に把握したうえで以後の治療方針を決定します。
 すなわち、検査は治療方針を決めるために非常に重要なものですが、あらゆる検査を行うことは現実的ではないため、医師がどの範囲で検査義務を負うべきかは、患者の重症度や緊急性を考慮して決められます。

検査義務をめぐる裁判例

①東京地判平成11年2月24日判タ1072号216頁 

 自殺目的で高所から飛び降りた患者が救急医療機関(第一次救急医療機関)に搬送されたが、当直医は胸部レントゲン撮影を施行しなかっただけでなく腰背部のレントゲン写真に異常所見があることを見落とした結果、胸腹内臓損傷により患者が死亡したことにつき医師の注意義務違反を認めた事例

②横浜地判平成21年10月14日判時2069号98頁

 腹痛を訴えて救急搬送された小児が絞扼性イレウスで死亡したことにつき、医師が必要な検査を怠ったとして、医師の注意義務違反を認めた事例

3、療養指導義務など

 救急患者に対し、当該病院にそのまま入院させて診療を行うべきか、他院に転送すべきか、外来での対応でよいかを決め、患者に伝える必要があります。
 しかし、どのような場合に入院あるいは他院への転送をさせなくてはならないのか、外来での対応でよいのかは一概に決めることはできませんので、個々の患者の状態により個別的に判断するしかありません。

療養指導義務をめぐる裁判例

①広島地判平成11年3月29日判タ1069号226頁

 交通事故による患者が搬送先の病院で医師の診察を受けたところ、腸管損傷の疑いがあったが開腹手術しなかった結果、容態が悪化して患者が死亡したことにつき、医師の開腹手術を翌日まで遅らせた措置に過失を認めた事例

②大阪地判平成3年1月28日判タ779号253頁

 腹痛を訴える救急患者を帰宅させ、自宅にて経過観察させたが、医師が家族に対し患者の観察方法、観察内容や緊急時における対応に関する指示説明などの療養指導を行わなかった過失を認めた事例

弁護士 藤田 大輔