1 MRSAとは

 MRSAとは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の略で、院内感染でよく問題となります。

 そもそも黄色ブドウ球菌というのは、身体の皮膚・粘膜などに生息する常在菌で普段これに感染することはないのですが、たとえば外科手術の後であるとか、癌などで免疫力が低下していると感染しやすくなります(易感染性といいます)。この黄色ブドウ球菌のうち、メチシリンという抗生物質に耐性を獲得したものがMRSAです。これに感染すると、肺炎や心内膜炎、敗血症などを発症し、場合によっては致死的になります。

2 MRSAと医療事故

 院内でMRSAに感染したからといって、常に医療機関に責任があるとは限りません。
 というのも、そもそもこの細菌が人体に常在するものであり、必ずしも感染ルートを特定することは容易ではないからです。しかも、他人から感染したものではなく、自分自身の身体に常在していた細菌なので、「他人のせい」(笑)にもなかなかしずらいですよね。

 このような背景があり、MRSA関連の裁判って昔から一定数あるのですが、基本的には患者側にとって負け筋事件が多いんです。過去の判例では、「感染源・感染経路を確定できない以上、…被告に過失があったかについてこれを確定することはできない」とするものが主流だったと思います(たとえば、東京地裁判決平成8年6月17日)。

3 医療機関の責任を肯定した判例

もっとも、医療機関の責任を肯定した下級審判例もあります(大阪地裁判決平成13年10月30日)。この症例は、脳腫瘍の手術をした幼児がMRSAに感染し、その結果、化膿性髄膜炎を発症し死亡したというものです。

この裁判例で指摘されている重要なポイントは、

  • 脳腫瘍摘出手術の後の縫合部では髄液の漏出が起こりやすいこと
  • 医療機関は、患部から漏出した髄液等への接触によるMRSA感染を防止すべき措置を講じる注意義務があったこと
  • 医療機関は、かかる義務を怠り、患部を露出したまま一時放置したことにより、患児はMRSAに感染し化膿性髄膜炎を発症したことです。

 この事案では、ある程度、感染ルートを特定できたため、医療機関の責任を問えたのだと思います。
 参考にしてください。