弁護士 井内健雄

今回は、胃がんについて書きます。胃癌検診を受け、異常なしとされたにもかかわらず、3か月後に病院で診察を受け、胃がんが見つかり、他臓器に転移していたという場合、胃癌検診時に癌の見落としがあったのではないかという疑問がある場合は、下記の裁判例が参考になります。

裁判例は、胃癌の疑いのある場合、内視鏡検査等の精密検査をすべき義務があるとしています。そこで、胃がんの疑いがあるかというのがポイントになります。重要なのは、レントゲン画像上、ひだや、粘膜異常が疑えないか、下記で記述する胃がんの症状がないか等がポイントになります。これを調べるには、検診時の問診票、レントゲン画像の資料が必要になります。その上で、レントゲン上に異常画像が写っていたり、問診上胃癌を疑える状況にあったりすれば、胃癌の見落としがあったといえるかもしれないです。



1 裁判例

胃がん検診(問診や上部消化管造影検査等)を実施し、患者に胃がんの疑いのある場合、医師には、「造影画像読影後速やかに内視鏡検査及び生検(以下両者を併せて「内視鏡検査等」という。)を含む精密検査をすべき義務があり、・・内視鏡検査等を自ら行い得ないのであれば、内視鏡検査等を行い得る医療機関を紹介し精密検査を受検するよう指導すべき義務」を有している(名古屋地判平成19年7月4日、判例タイムズ1299号247頁)。

 

2 医学的知見

 (ア)胃癌

   ⅰ 定義・病理

     胃癌とは、胃の壁の最も内側にある粘膜内の細胞が何らかの原因でがん細胞になったものである

     胃癌の発生部位は幽門前庭部に40.8%、胃体部に39.6%、胃上部に17.0%であり、全体にできるものが1.9%ある。

   ⅱ 症状

   (ⅰ)自覚症状

上腹部痛、上腹部不快感、腹部膨満感、背部痛、悪心、嘔吐、げっぷ胸焼け、食欲不振、口臭などがある。

   (ⅱ)他覚症状

      上腹部に凹凸不整で硬い腫瘤を触知するものは進行癌である。周囲臓器あるいは腹壁への浸潤をきたすと、腫瘤の可能性が消失する。進行すると腹水が貯留する

   ⅲ 診断

   (ⅰ)診断の流れ

      胃癌が疑われると、まず、血液検査や胃X線検査、内視鏡検査などを行い、病変の有無や場所を調べる。内視鏡検査では、実際に目視で胃の内部を観察し、癌が疑われる病変があると、生検を行い、病理検査・病変診断で確定診断をする

      したがって、定期検診(X線検査)で病変がある場合には、内視鏡検査をし、生検を実施し、病理検査をしていく必要がある

      胃癌の進み具合や深達度や転移を調べる検査としては、超音波検査(エコー検査)、CT検査、注腸検査などがある。

      上記の検査結果を総合的に判断して、病期(ステージ)が判定され、治療方法が決まる。

   ⅳ 検査

(ⅰ)X線(造影)検査

      胃X線検査は、バリウム(造影剤)と発泡剤(胃をふくらませる薬)を飲み、胃の中の粘膜を観察する検査である。胃癌を発見することが目的である。胃X線検査では、胃の形や粘膜表面の状態だけではなく、胃の壁の動きや硬さの変化も観察することができ、癌の有無や浸潤の範囲、深達度などが診断できる。胃や癌を全体的に観察することが可能である。

      潰瘍の局在および深達度を知るのに有用である。食道および十二指腸への浸潤の有無を知ることもでき、手術における切除範囲の決定にも役立つ。進行癌では、粘膜壁の断裂、陰影欠損、狭窄像、胃壁の硬直などの所見がみられる。早期癌は、二重造影法や圧迫法が有力な診断法で、粘膜壁の先細りや集中像と断裂像、扁平な隆起や浅い不整形の陥凹などの所見がみられる。

   (ⅱ)内視鏡検査

      胃の中を内視鏡で直接観察する検査である。内視鏡検査は、胃の中の小さな病変を見つけることが可能で、胃X線検査でがんなどが疑われた場合、確定診断をつけるための精密検査として行われる。胃の内部を直接見て、がんが疑われる場所の病変の範囲や深達度を調べる検査で、胃カメラ検査とも呼ばれる。病変があれば、生検を行い、病理検査で詳しく調べる。

      胃癌診断に際して最も重要な検査の一つである。進行癌は表面凹凸不整で隆起や潰瘍をつくり、膿苔や凝血が付着する。早期癌では、粘膜面の不整隆起あるいは、浅い陥凹および潰瘍の形成をみる。検査の際は、病変の肉眼型を判断するのみならず、局在・拡がり・深達度を正確に判断して手術術式の選択に有用な所見を得なければならない。

   (ⅲ)超音波内視鏡検査

      通常の内視鏡検査では、粘膜面からの観察のみが可能だが、超音波内視鏡では、病変の深達度および周囲臓器との位置関係が明確になる利点がある。縮小手術を選択する場合の早期胃癌の深達度診断や、進行癌の場合の周囲臓器への浸潤の有無および胃周囲リンパ転移の有無を診断するのに使用されるようになった。

   (ⅳ)超音波検査

      体表面からの超音波検査は、早期の胃癌を診断するには適さないが、進行した胃癌の場合は深達度を知ることができるほか、肝転移巣の有無、胃周囲および大動脈周囲のリンパ節転移の有無、腹水の有無を診断する際に利用される。

   (ⅴ)CT検査

      進行癌の場合は腫瘤の大きさ、周囲臓器への浸潤の有無が判別できる。また、リンパ節転移、肝転移の有無および程度がわかる。

   (ⅵ)MRI

      CTと同様の目的で、さらに高い解像度を期待して用いられることがある。後述する血管造影と同様の目的でMRアンギオグラフィ(MRA)が行われることもある。

   (ⅶ)骨シンチグラフィ

      骨転移が疑われる場合、アイソトープを用いた骨シンチグラフィが行われることがある。

   (ⅷ)血管造影

      胃周囲の血管の走行を知ることは、手術の際に大いに参考となる。肝動脈の走行の破格は比較的よくみられるものである。低侵襲で明瞭な画像が得られるdigital subtraction angiography(DSA)なども行われている。

   (ⅸ)生検・細胞診

      内視鏡検査で組織を得る(生検)ことで、病理組織学的に病変の良性・悪性が判断できる。組織型や浸潤範囲を判断し、治療方法や切除範囲を決める。また、肉眼的に明らかな結節を伴わない腹膜播種が診断できる。

   (ⅹ)血液検査

      進行癌の場合は貧血、低蛋白血症を伴うことがある。腫瘍マーカーと呼ばれるもののうち、CEA,CA19-9、DU-PAN-2などが比較的陽性率が高く胃癌の存在診断に用いられるが、進行度の判定やスクリーニングに決定的なものはない。腹膜播種を起こした進行癌でCA125が陽性になることがある。

      主細胞から分泌されるペプシノーゲンはサブタイプ(Ⅰ・Ⅱ)をもち、99%が胃内腔へ分泌されるが、1%は血中に流入する。Ⅰ/Ⅱ比は胃粘膜萎縮の程度を反映するため、胃癌高危険群である慢性萎縮性胃炎の血清学的スクリーニングに用いられている。

   (ⅺ)鑑別診断

      早期胃癌では、胃潰瘍・胃炎・良性ポリープとの鑑別を要することがある。進行癌では、胃肉腫・粘膜下腫瘍・悪性リンパ腫との鑑別を要することがある。いずれも最終的には生検組織での病理学的診断による。

   ⅴ 病期

      病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、ステージという言葉が使われることがある。胃癌は、癌の深さ(T:Tumor腫瘍)、リンパ節転移の程度(N:Nodesリンパ節)、別の臓器への転移の有無(M:Matastasis転移)の項目によって、Ⅰ期(ⅠA、ⅠB)、Ⅱ期(ⅡA、ⅡB)、Ⅲ期(ⅢA、ⅢB、ⅢC)、Ⅳ期に分類される(TNM分類)。なお、遠隔臓器への転移が認められる場合には、病期はⅣ期となる

   ⅵ 治療

     胃癌の治療法には、内視鏡的治療法、外科治療、化学療法がある。他方、治癒の期待できない患者には緩和療法がある。

     病期がⅠA期であり、胃の粘膜に限局している場合には、内視鏡治療によるが、ⅠA期でも胃の粘膜下層に達している場合やⅡ期、Ⅲ期の場合には、外科的手術をすることになる。手術後は、経過観察、補助化学療法、化学療法、対症療法がなされる。

     他方で、Ⅳ期の場合には、遠隔転移を伴っており、癌を全て取り除くことを目標とする根治手術は難しいと考えられるため、手術適応がなく、化学療法、放射線療法、緩和療法、対症療法がなされる。もっとも、患者の体力がない場合には、化学療法や放射線療法すらできないこともある。

   ⅶ 予後

   (ⅰ)5年生存率

      5年生存率とは、がんと診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す指標であり、がんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合が、5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表す。100%に近いほど治療で生命を救えるがん、0%に近いほど治療で生命を救い難いがんであることを意味する。

      そして、病期Ⅰの5年生存率は97.6%、病期Ⅱの5年生存率は66.8%、病期Ⅲの5年生存率は45.0%、病期Ⅳの5年生存率は7.3%である

  (イ)慢性萎縮性胃炎

     萎縮性胃炎という疾患は、胃粘膜が慢性炎症によって萎縮を起こし他状態である。ヘリコバクター・ピロリの慢性的感染症や生まれ持った自己免疫が原因とされ、自己免疫性萎縮性胃炎を含むこれらの疾患は、胃癌や甲状腺疾患である橋本病や塩酸欠乏症を引き起こすとされている。

     特に、萎縮性胃炎において、最も注意すべき事項は、萎縮性胃炎が胃癌の発生母地であること、すなわち、胃癌が発生するリスクが非常に高いということである。

     また、萎縮性胃炎のほとんどはヘリコバクター・ピロリへの感染が原因であることから、萎縮性胃炎を含めた場合、一般的にはピロリ感染の有無を検査して、感染していることが判明した場合には、除菌治療を行う。

     上記のように、萎縮性胃炎は、胃癌のリスクが高い疾患であるため、この診断を受けた場合は、定期的な上部消化器官内視鏡検査を行うことが推奨される。胃癌の症状や他の検査から胃癌を疑う所見を得られなかったとしても、一般的には、1年ごとの内視鏡検査を受けるよう指示することがほとんどである。