今回は、医療訴訟をする場合、どのようなことを考えていくかを、書いてみます。

相談時

まず、相談時点で、患者さん(その家族)から、お話を聞きます。このとき、時系列の表をしっかり書いてくれたメモを事前に送っていただくと、相談がスムーズになります。他に役立つ資料は、①入院計画書、②手術説明書(同意書)、③死亡診断書です。

①については、いつ入院したのか、どんな病気で入院したのか、②については、手術の内容、③については、どの病気で亡くなったのかが分かるからです。
そうすると、どこが、問題になりそうか、というのが把握できます。

証拠収集

証拠保全して、資料を集めたり、任意の開示請求をして資料を集めていきます。証拠の収集方法については、別の機会に書いていきます。

調査

次に、資料が揃えば、医学的な問題点、法的な問題点を調べていくことになります。法的な問題については、過去の判例を調べます。

そして、判例が見つかれば、本事例とどこが違うかという視点で検討します。その違いを踏まえて、その部分の医学的な判断がどう変わるのかという視点で調べていくことになります。

次に、判例のリサーチ後、医学的な問題について検討する必要があります。医学的な部分については、そもそも、医師の目から見て、その医療行為が適切なのかどうかという視点と、法的レベルで、過失と評価できるかという2つの視点で検討します。医学的な部分にかんしては、第三者の医師にコメントを採ることが必要です。

具体的に、胃癌の見落としの事例で思考パターンを紹介します。

まず、判例を調べます。すると、

胃がん検診(問診や上部消化管造影検査等)を実施し、患者に胃がんの疑いのある場合、医師には、「造影画像読影後速やかに内視鏡検査及び生検(以下両者を併せて「内視鏡検査等」という。)を含む精密検査をすべき義務があり、・・内視鏡検査等を自ら行い得ないのであれば、内視鏡検査等を行い得る医療機関を紹介し精密検査を受検するよう指導すべき義務」を有している(名古屋地判平成19年7月4日、判例タイムズ1299号247頁)。

のような判例が見つかります。

すると、「胃癌の疑いのある場合」とは、どのような場合かを検討することになります。胃癌の症状等は文献で調べられます。ただ、レントゲン上疑えるかは、医師の判断が必要となります。そうすると、下記のような質問を医師にすればいいことになります。

1 上部消化管内視鏡検査をすべき義務について

(1)レントゲン撮影された患者の胃の画像から、どのようなことがいえますか。

→・胃体下部大弯に外壁圧迫

・太いひだの集中、陥凹

(2)レントゲン撮影された患者の胃の画像から、胃癌の可能性を疑うことはできますか。

→できる

理由:
(一般論)胃のレントゲン写真では、造影剤を用いて撮影し描出された陰影の異常から病変の存在および質を診断します。
胃癌はその形態により隆起性病変、陥凹性病変、びまん性病変などに分類さ、その見え方は各病変によって異なりますが、一般的に、辺縁不正、壁の不連続性、病変に集中するひだとその途絶、胃壁の変形、胃壁の硬化像などを認めた場合悪性を疑います。

(本件)(1)の所見があり、胃癌の疑いがある。

(3)レントゲンの結果、医師はどのような検査を勧めますか。

(一般論)レントゲン検査の結果、胃癌の疑いがある場合、上部消化管内視鏡検査を行う。(文献)または、施設に上部消化管内視鏡検査ができる施設がない場合には、同検査ができる施設に受診するように勧める。

(本件)(1)(2)から胃癌の疑いもあり、上部消化管内視鏡検査を行うべきであった。

そして、上記の質問をし、医師のコメントがあった場合、医学的にも過失が認められそうだと判断できることになります。

そうすると、過失(その他、因果関係等の要件も必要です)が認められると判断でき、訴訟をする方向へ検討していくことになります。