1 専門委員制度の概要

 専門委員制度は、平成15年の民事訴訟法改正により設けられた制度である(民事訴訟法92条の2以下)。医療訴訟などの高度に専門的知見を要する訴訟について、訴訟進行を迅速かつ適切に行おうという要請から新設された。
 専門委員は、裁判所の専門的知見を補充するもので、あくまでも中立・公平な立場に立ち、「訴訟関係を明瞭に」(同法92条の2第1項)する等の目的のために用いられ、その説明は証拠とはならず、この説明を根拠に裁判所が事実認定をすることはできない。

2 専門委員の関与する場面

(1)医療訴訟の流れ

 医療訴訟は、①訴え提起→②争点整理手続→③証人尋問→④和解→⑤鑑定→⑥判決という流れで推移していく。この各過程の中で専門委員がどのように関与しているのであろうか。

(2)②の手続への関与

ア 争点整理手続への関与

 裁判所のアドバイザー的な立場から、専門的な事項について説明し、争点の整理に関与する。医学的知識が不足している当事者や裁判所に専門的な知識を補充し、裁判所や当事者が早期に争点を把握するのを補助する。
 なお、争点についての結論(一定の医療行為が過失にあたるかなど)を尋ねることはない。

イ 説明会での説明

 争点の整理や証人尋問の前提となる一般的な医学的知識について、総合的に説明するとともに、人体模型やビデオ、CD、写真などを用いて、視覚的にも裁判所を含めた関係者に理解させる。

(3)④の手続への関与

 この段階での専門委員の手続関与は当事者双方の同意が前提となる。
 当事者との信頼関係があって、当事者から意見を求められた場合には、意見を述べることもある。

(4)⑤の手続への関与

 証人尋問後の期日において、争点との関係で適切な鑑定事項やその争点に関する専門分野がどこなのかについてアドバイスしたり、鑑定人として最も適切な専門家は誰なのかをアドバイスする。

3 専門委員制度の諸問題

(1)誰が任命されるのか

 専門委員に任命されるためには、大学等の専門研究機関において教授、助教授等の要職の経験がある医師、豊富な実務経験がある医師その他の当該分野における高度な専門的知識経験を有する医師であることが必要である。
 もっとも、教授又は助教授に限るものではなく、民間の病院の医師が選任されることもある。

(2)鑑定と何が異なるのか

 鑑定制度とは、争点が特定されて、いざその争点について、専門的知見に基づく「判断」をするときに、その結論自体について意見を求める制度である。
 これに対して専門委員制度とは主として「争点整理手続」に関与して説明するものであり、争点に対する「判断」を提供するものではないという点で鑑定制度と異なる。

(3)専門委員制度におけるメリットは何か

 専門委員は、医師として公正中立な第三者である専門家として裁判に関与し、当事者や裁判所が医学知識を有していないことによって医療訴訟がいたずらに長引いたり、裁判所が、医学的常識から外れた争点に引きずられないよう、協力するものであり、それが患者側、医療側全体にとってのメリットになるものである。

4 まとめ

 医療訴訟は従来、何か難しそうで、近づきにくいという印象であった。
それは、何度も何度も弁論準備手続の期日を重ね、裁判官も弁護士も理解の難しい専門的な事項を手探りで争点整理し、最後はまとめて鑑定人の意見に従って訴訟終了というイメージがあったからである。
 しかし、今後は専門委員が訴訟に参加することで、裁判官や弁護士が専門的な事項を理解し、スムーズに争点整理ができるようになることが期待されている。
 なお、当事務所では、豊富な協力医のネットワークが存在し、時には協力医に尋ね、時には医学文献を紐解くことで、専門委員を参加させずとも裁判官に専門的な事項を理解してもらっており、スムーズな訴訟運営に寄与していると自負している。

以  上