1.意義

 医療訴訟は、その審理や裁判に際して、医学上の専門的な知識が要求される専門訴訟の代表例である。したがって、その適正な審理には困難を伴い、審理期間も長期化する傾向にある。現に、既済事件の平均審理期間は約2年にも及び、通常事件全体の平均審理期間の約3倍にもなる。このように、医療訴訟は事件の性質として審理期間が長期になってしまうので、その適正、迅速な審理、判断に対する国民の期待も大きい。

 そこで、2001年4月、東京、大阪の両地方裁判所において、医療訴訟を集中的に取り扱う医療訴訟集中部が新たに設けられ、その後、千葉、名古屋、福岡、さいたま、横浜にも順次設置されている。

2.医療訴訟集中部での審理

 医療訴訟について適性、迅速な審理を実現するためには、早期に診療経過についての情報の開示を受けるとともに、審理に必要な医学的知見を獲得し、それらについて争点を確定するとともに、証拠を収集するなどして、適切な争点整理を行い、整理された争点を前提として集中証拠調べを実施し、必要に応じて適切な鑑定を実施することが求められる。

 具体的には、全国の医療訴訟集中部では、被告による情報の早期開示を徹底させることで、証拠及び医学知識の偏在を原因として、医療事件の進行が遅滞することを防ぐために、①カルテ、看護日誌等の医療記録につき、すべて翻訳を付けて証拠として提出させ、②上記の翻訳付きカルテに基づき、診療経過一覧表を作成させている。また、全国各地の医療訴訟集中部では独自の試みもなされていて、福岡地裁では、①②の他に、③原告に発生した後遺障害、死亡などの結果が、医学的にどのような因果の流れで発生したのかという機序について、被告に積極的に主張させ、これら3つを併せて、3点セットと呼んでおり、第1回口頭弁論期日において、被告に協力を求めたうえ、その旨を口頭弁論調書に記載している。

 このような各地の医療訴訟集中部の努力の結果、大阪地裁医事事件集中部で平成13年4月1日から平成18年3月31日までに終了した事件を対象とした調査によると、大阪地裁における医療事件の平均審理期間は14.8か月であり、医療訴訟集中部が一定の成果を上げていることが分かる。

3.医療訴訟集中部の設備

 医療訴訟では、臓器の構造や立体的な位置関係など、文字で表現するよりも視覚的に理解した方が適切な場面が多々あり、そのような視覚的な理解を、裁判所と当事者間でも共有し、その理解を前提として議論を進めることが大変重要である。そのため、医療訴訟集中部では、人体模型やシャウカステン(X線フィルム観察用の照明具)といった、事案や問題点の視覚的な理解を共有するのに役立つ様々な備品を備えている。

4 まとめ

 前述のように大阪地裁における医療事件の平均審理期間が14.8か月であり、医療事件の平均審理期間の全国平均と比較して約10か月短縮しており、医療訴訟集中部の人的物的設備が大変機能していることが分かる。この反面、医療訴訟集中部のない地域においては医療訴訟の審理は適正、迅速の要請は必ずしも満たしているとはいいがたい。

 そこで、今後は全国の高等裁判所が存在する地方裁判所に医療訴訟集中部を作り、国民に地域格差なく適正・迅速な医療裁判を受けることができるようにするべきであると考える。

弁護士 藤田 大輔