弁護士 池田実佐子

縫合不全 一般論概要 (大阪地判H10.12.18判決)

 

・縫合不全とは

縫合部が治癒しないで創が離開した状態のこと。

この状態が消化管吻合後に生ずると、消化管の内容が胸腔内、腹腔内に漏出し、重篤な感染症を起こし、その結果、致命的な結果をもたらすことがある。

 

・縫合不全の発生の機序

術後5~7日目に始まる吻合部の組織の治癒過程(再生期)が障害されるために起こる。

治癒過程を妨げる要因は、全身的な要因と局所的な要因。

全身的な要因:低栄養状態、低蛋白血症、慢性疾患(糖尿病、肝・腎障害)など。

局所的な要因:感染、血行障害、膵消化酵素の存在など。

*さらに、吻合術式、縫合材料、吻合部の過緊張などの技術的要因も関係があると考えられるが、実際上は原因とはなりにくいと考えられている。また、高齢者の方が発生しやすいため、高齢者であることも要因の一つであるといわれている。実際にはこれらの要因が複雑にからんで発生するものであって、最も重要な要因が何であったかを確定するのは困難。

 

・縫合不全の診断

体温の上昇、頻脈、白血球数の増加等のいわゆるバイタルサインの変化、吃逆・腹痛等の症状、ドレーン排液の性状(吻合内部の消化液、膿等による汚濁や汚い色調の悪臭をもった感染性の排液)などによって行う。
但し、これらのうち、体温の上昇、頻脈、白血球数の増加等、吃逆・腹痛等の症状は、術後しばらくの間(3日間ぐらい)は、縫合不全がなくても手術自体によって起こる症状として多少は認められるので、右症状のみで縫合不全が発生していると判定することは困難であり、ドレーン排液の性状に注意すべき。
*画像検査としてはガストログラフィン検査

=消化管内に造影剤(ガストログラフィン)を注入し、消化管外に流出するのを確認できれば診断がつく。縫合不全の発生の有無を確認するための方法として一般的なものだが、そのためには造影剤が縫合不全部を通過する必要があり、体位を変換させたり、ときには多くの造影剤を注入することも必要となる。逆に、ドレーンから造影剤を注入し、消化管が造影されたことによって、縫合不全の診断をつけるという方法もあるが、腹腔ドレーンから腸内容や胆汁が出て、ドレーンからの造影で縫合不全が診断された症例はほとんどなく、発熱や白血球増多が続くが原因がはっきりしない場合やドレーンからの排液が汚なく膿性であると思っていると突然ドレーンから出血する場合が大多数であったと指摘する文献も存在する。

 

・縫合不全の治療法

①手術療法と②保存的療法がある。

①ガストログラフィン検査によって縫合不全部位、その大きさを判定し、さらにドレーンが挿入されていればその効果を判定し、メジャーリーケージ、非限局性のリーケージ、ドレーンの効果不良の場合や、炎症が汎発性になった場合などは、直ちに再手術を施行し、ドレナージドレーンを的確な部位に挿入・留置し、漏出した消化管内容、膿瘍を体外に誘導して排液、排膿を図る。一般に、縫合不全部の再縫合あるいは再切除などが行える場合は少なく、確実にドレナージ効果が得られるように処置することが先決。

②縫合不全による症状が軽度で、縫合不全部からの造影剤の漏出が少量である場合(マイナーリーケージ)には、保存的治療で経過観察をし、再手術を見合わせる。

高カロリー輸液を施行するなどして全身状態の改善(全身的な栄養管理)に努めるとともに、局所的なドレナージを効果的に行う(吻合部に挿入したドレーンからのドレナージをうまく効かすようにする)。経過観察中は、熱型、腹部の理学的所見、白血球数、ドレーンからの排液の量・性状を厳重にチェックし、高熱が持続したり、白血球数が増加し、筋性防御が出現し、圧痛が漸次増強するなどの変化が現れたら、時機を逸しないように再手術を施行することが必要。

 

・その他

膵ー空腸吻合部で縫合不全が発生した場合、膵液が腸内容と接触することにより、膵液中の蛋白分解酵素が活性化され、周辺組織への侵食を引き起こし、これに感染、腸内容停滞、膵周辺の動脈出血などが加わり、縫合不全は重篤化して多臓器不全を経て死に至ることも少なくない(胃十二指腸動脈などの腹腔内血管が破綻を来し、大出血を生じることもある。)。


                                                                                       以上