アナフィラキシーショック

弁護士 井内健雄

(ア) アナフィラキシーショック

  ⅰ 概念

アナフィラキシー(anaphylaxis)とは、特定の原因抗原により惹起される急速な全身性のI型アレルギー反応を指す。症状は原因抗原が侵入後数分で起こり、軽度の場合は蕁麻疹などの皮膚症状のみですむが、重症の場合には、呼吸困難、血圧低下などのショック症状を呈し、死亡することもある。アナフィラキシーとアナフィラキシーショックは、ほぼ同義語として使われている。また、IgE抗体が関与せず、直接肥満細胞から化学伝達物質が遊離され症状を引き起こす場合をアナフィラキシー様反応と呼ぶ。

      ⅱ 病因

        アナフィラキシーは、異種蛋白や薬物などが非経口的(注射)に体内に入ったときに起こりやすい。

      ⅲ 病態生理

        アナフィラキシーは、特定の原因抗原に対するIgE抗体を有する人にのみ発症する。抗原が好塩基球や肥満細胞表面上の抗原特異的なIgE抗体と結合しIgE受容体が架橋されると、細胞活性化され、ヒスタミン、ロイコトリエン、血小板活性化因子などの化学伝達物質が遊離される。これらのメディエーターが、血管拡張、血管透過性の亢進、気道平滑筋の収縮、気道の浮腫と粘液分泌亢進、さらに腸管蠕動亢進、心筋抑制、心伝導、白血球・血小板の活性化、凝固系の活性化を引き起こす。

        アナフィラキシーショックは、血管拡張と血漿漏出による体液量減少性ショックである。それに加え、ほかのショックと異なり、気道平滑筋の収縮および気道の浮腫・分泌亢進による閉塞、血管運動性浮腫、蕁麻疹などのI型アレルギーの症状が出現する。

      ⅳ 臨床像・臨床経過・検査所見

        アナフィラキシー症状の出現時間や程度は、固体の感作の状態、原因抗原または起因物質の量、投与経路により異なるが、通常、原因抗原注射後2、3分から5分以内に起こる。症状の発現が早いほど重篤で、遅いと症状が軽い。

        前駆症状として、口内違和感、口唇のしびれ、四肢のしびれ、心悸亢進、耳鳴り、めまい、腹痛、下痢、悪心、尿意、便意などが出現する。その後、かゆみ、蕁麻疹、眼瞼・口唇の浮腫などの皮膚症状、喉周辺の違和感や嗄声、喘鳴の上気道・下気道の閉塞症状や、血圧低下による四肢の冷感、虚脱感が起こる。さらに、頻脈、血圧低下、循環不全による意識障害、あるいは気道狭窄による呼吸困難、チアノーゼが出現する。重篤の場合には、気道狭窄による窒息が主症状となることがある。特に、咽頭部、咽頭蓋の血管性浮腫による閉塞は、窒息をきたし致命的である。

      ⅴ 診断・鑑別診断

        アナフィラキシーは、主として詳細な病歴にて診断する。原因抗原との暴露後、短時間での症状、兆候が出現していたかどうかがポイントである。

        皮膚、呼吸器、循環器系のすべての症状がそろっているときは、診断は容易である。

      ⅵ 治療の原則

        アナフィラキシーショックは発症が非常に急激で、かつ気道閉塞を伴う。アナフィラキシーショックによる死亡は、最初の徴候から数分から数時間以内に起こる。したがっ症状発現後の迅速な治療が必須である。

        窒息症状やショック状態は緊急事態である。まず気道狭窄の程度と循環動態をチェックし、気道確保・血管確保と同時にただちにエピネフリン(1000倍液)0.3~0.5mlを皮下注射し、その後ほかの薬物治療を行う。また、軽度~中程度の徴候(蕁麻疹や軽い気道閉塞症状)であっても、発症後最低6時間は経過を観察すべきである。中等度~重度のアナフィラキシー(特に抗原摂食後に起こった場合)は、一度症状が改善しても再燃の危険があるため、入院にて経過観察すべきである。

      ⅶ 治療内容

        アナフィラキシーショックの初期治療としては、気道の確保、呼吸の補助、循環の維持をすることが重要であり、アドレナリン投与と十分な補液、高濃度酸素の吸入を行う。

        第一選択薬はアドレナリンと補液、酸素であり、ステロイドと抗ヒスタミン薬は第二選択薬である。カテコラミンやその他の昇圧薬を使用して迅速に呼吸・循環動態の改善を図る必要がある。循環動態の改善を図るときには昇圧薬のみならず十分な補液が必須である。すなわち、十分な補液とともに第一選択薬のアドレナリンの迅速な投与がアナフィラキシーショック治療において必要である。

        アナフィラキシー時の心肺停止に対する治療には、より積極的な治療が必要である。すなわち、①アナフィラキシーであることを迅速に認識し、診断する。②薬物によるアナフィラキシー時にはただちに抗原(原因薬物)の投与を中止する。③アナフィラキシーと診断したならば、仰臥位にして下肢を挙上する。④循環拒絶や重度な気管支痙攣の場合には心肺蘇生に準じた治療が必要である。すなわち気道の確保、呼吸の管理、循環の管理を行う。⑤重篤な患者では、ただちに、第一選択薬であるアドレナリンを大腿に筋注する。ステロイドや抗ヒスタミン薬はあくまで第二選択薬である。⑥静脈路を確保する。⑦十分な補液が必要である。

      (ⅰ)気道確保

         気道確保が最優先事項である。まず、仰臥位にし、前頸部を引き上げて舌根沈下を防止する。もし、患者が換気不能の場合、気管内挿管し、人工呼吸を100%酸素で始める。喉頭浮腫が強く、エピネフリンに反応せず、気管内挿管できないときは、外科的な処置(気管切開など)が必要である。

        血圧低下に対しては最初にただちに下肢を挙上する。この操作により約700~800mlの生理食塩液を輸液したのと同等の血液量を心臓に送ることができる。ショックの患者で循環血液量の減少が大きければ大きいほど、下肢挙上により血圧の改善が大きくなる。

      (ⅱ)エピネフリン注射(アドレナリンの投与)

         エピネフリン(1000倍液)が最も重要な薬剤である。0.3~0.5mlを皮下注射して、反応がなければ20分ごとに繰り返す。重篤な場合(ショックなど)、エピネフリンの舌下投与、中心静脈投与、気管内チューブ投与などが可能である。これらの方法で反応が乏しければ、エピネフリンの持続投与も考慮する。0.1μg/kg/分を血圧の値をみながら点滴する。

        アナフィラキシーの治療のポイントはいかに迅速に、また適切にアドレナリンを使用するかである。アナフィラキシーによる死亡はアドレナリン投与の遅れ、また重篤な気管支痙攣や循環虚脱、またはその両者の結果であることが多い。アナフィラキシーの循環抑制時には、アドレナリンが第一選択薬であるが、十分な輸液をすることなしにアドレナリンを投与するのみでは循環虚脱を改善することができない。アドレナリンはアナフィラキシーの第一選択薬として適切に使用すれば効果を期待でき、化学伝達物質のさらなる放出を抑制し、増大した血管浸透性を減少し、低下した血管運動性を改善する。

        アドレナリンはα1作用による血圧上昇作用とβ2作用による気管支筋弛緩作用によりアナフィラキシーの治療に適している。アナフィラキシーの循環虚脱や気管支痙攣発症時での死亡はアドレナリンの投与遅延や不十分な投与量に密接に関連しており、可能な限り早めに投与すべきであり、アナフィラキシー時のアドレナリン投与に忌避はない

      (ⅲ)血管確保と輸液

         500~1000mlの補液(生理食塩水など)が、エピネフリンの治療に加えて血圧低下の際有用である。補液で血圧が維持できない場合は、ドパミン5~20μg/kg/分を点滴静注する。

         アナフィラキシーショックでは、末梢血管拡張と毛細血管透過亢進により循環血液の血管外漏出が起こり、発症10分後までに循環血液が50%まで血管外の漏出することがある。アナフィラキシーショック早期には、有効循環血液量の減少は20%~50%に及び、重篤な循環血液量低下性ショックの病態に陥っている。それゆえ、初期治療としては、アドレナリンの投与とともに積極的な輸液治療が必須である。アナフィラキシーショックの可能性があり血圧低下が見られたときには、ただちに輸液を開始する。ただし、アナフィラキシーショック時には、輸液だけで治療することは不可能であるので、臨床所見・症状に応じて薬物療法を行う。大量輸液時には、十分な循環系モニターが必須であるが、臨床的に簡便な指標である血圧上昇と脈拍数減少、脈圧増加、尿量増加などの効果があれば至適輸液量であり、輸液を行ってもこれらの臨床的指標の改善が見られないときには、輸液量が不足しているのでさらに、輸液を続ける。輸液量が不足していると考えられるならば、10分間で1Lの輸液を行い、血圧低下の回復程度を再度評価し、その後の輸液投与量を決定する。

      (ⅳ)気管支拡張薬

         気管支狭窄の症状がある場合は、アミノフィリン250mgの静注を10~20分かけて行う。以降、0.5~1mg/kg/時で点滴静注する。治療に反応しない気道狭窄のときは、β2刺激薬を生理食塩水に混合し吸入させる。

      (ⅴ)抗ヒスタミン薬

        抗ヒスタミン薬はアナフィラキシーに対して速効性ではないが反応持続を短縮する効果は認められる。ジフェンヒドラミン25~50mg、6時間ごとの経口投与は有効である。

        抗ヒスタミン薬の作用はアナフィラキシーショック発症に関与する多くの化学伝達物質のひとつであるヒスタミンにのみ作用する薬物であるので、あくまでアナフィラキシーショックの治療では補助的なものである。抗ヒスタミン薬はあくまでも第二選択薬であるのでアドレナリン投与と十分な輸液投与後に併用すべきである。

      (ⅵ)副腎皮質ホルモン(ステロイド)

         副腎皮質ホルモンは速効性ではないが、アナフィラキシーによる炎症反応を抑制し、重篤な再燃を予防する効果を認める。ヒドロコルチゾン125mg、6時間ごとの静脈内投与が有効である。

        糖質コルチコステロイドは、静注投与後4~6時間は作用発現がみられないので、アナフィラキシーショックの急性期治療では一般的に効果はない。ただ、将来的な効果を期待して投与することには意味がある。

      ⅷ 予後

気道閉塞が軽度のアナフィラキシーショックは、適切な治療により1~2時間で改善する。呼吸器症状や皮膚症状は、24時間以上続くことがある。アナフィラキシーショックによる死亡は、初期の1~2時間に起こり、多くは喉頭浮腫、不整脈による心停止が原因である。

 

参考文献

・内科学(2分冊第Ⅱ巻)/医学書院

・アナフラキシーショック/克誠堂出版社

 

 

最高裁判例平成16年9月7日(最判民集215号63頁)

【判示事項】

看護婦から点滴により抗生剤の投与を受けた患者が投与開始直後にアナフィラキシーショックを発症して死亡した場合において医師にあらかじめ看護婦に対し投与後の経過観察を十分に行うこと等の指示等をすべき注意義務を怠った過失があるとされた事例

【判決要旨】

 看護婦から点滴により抗生剤の投与を受けた患者が投与開始直後にアナフィラキシーショックを発症して死亡した場合において,同抗生剤がその発症の原因物質となり得るものであること,当該患者が薬物等にアレルギー反応を起こしやすい体質である旨を申告していたことなど判示の事実関係の下では,担当医師には,上記抗生剤を投与するに当たって,アナフィラキシーショック発症の可能性を予見し,これに備えて,あらかじめ,担当の看護婦に対し投与後の経過観察を十分に行うこと等を指示するとともに,発症後における迅速かつ的確な救急処置を執り得るような医療態勢に関する指示等をすべき注意義務があり,このような指示をしないで担当看護婦に上記抗生剤の投与を指示したことにつき,上記注意義務を怠った過失がある。

 

前述したように、アナフィラキシーショックは薬剤により一定程度生じてしまい、一度起きてしまうと死亡につながる危険性もある。他方で、アナフィラキシーショックが起きても、すぐにアドレナリン等の投与等の適切な処置がなされた場合は救命の可能性は高い。

このような状況のもとで、判例は、薬剤の注射したこと自体を過失と構成するのではなく、その後の救急処置を執りうる態勢とできていなかったことを過失と構成している。

他の判例も、注射前の問診を問題にしているものもある。

 

したがって、アナフィラキシーショックで症状が出て、医療過誤といえるかを検討する場合、注射したこと自体を問題とするのでなく、

その前段階として、問診ができていたか

アナフィラキシーショックが生じた場合に救急対応できるような態勢がとられていたか

さらに、実際に、アナフィラキシーショック後の、適切な処置がなされたか

を確認していく必要がある。

以上