今回は、最近の歯科医療のトラブルで頻繁に耳にするようになったインプラントを取り上げてみようと思います。

 従来、抜歯等で歯がなくなってしまった場合、ブリッジか入れ歯しか、ない歯を補う方法は存在しなかったのですが、インプラントという新たな技術が開発されました。インプラントが登場したことで、歯科業界はかなり活気付いた面があるかもしれません。ただ、ブームに乗って、多くの歯科医が取り入れたものの、必ずしも熟達しないまま処置して、インプラントがぐらついたり、下歯槽神経を損傷したりといった事故事例もかなり報告されようになりました。

 人工的に半永久的な歯を手に入れられるという画期的方法でありながら、恐い側面もあるインプラントについては、ある程度、押さえておかなければならない知識があります。

 まず、インプラントの構造について、確認しておきます。歯槽骨へ埋め込むねじのような部分をフィクスチャー(人工歯根)といいます。そのフィクスチャーと上部の人工歯を繋ぐ連結部分はアバットメントと呼ばれています。

 次に、フィクスチャーを埋め込む際、歯槽骨に十分な厚みがあればよいのですが、その厚みがない場合、骨移植・骨充填によって、歯槽骨を増大させる措置が採られることがあります。この措置の代表的なものとして、ソケットリフトとサイナスリフトが挙げられます。

 ソケットリフトとは、歯槽骨の薄い箇所の真下からドリルで歯槽骨を削り、上顎洞の寸前で止めます。そこから薄く残った歯槽骨もろとも、下から突き上げて、歯槽骨と上顎洞の境界にあるシュナイダー膜という粘膜を押し上げていきます。そして、必要量だけ押し上げたら、そこに移植骨(自家骨)又は骨補填剤(人工骨)を充填し、フィクスチャーを埋入させます。その状態で、5か月程待ち、充填した骨が安定したところで、フィクスチャーにアバットメントと人工歯を取り付ければ終了です。
 ただ、この方法は、歯槽骨の厚みが極端に薄い場合(3mm以下)、骨充填と同時に埋入されるフィクスチャーの初期固定が得られないため、適応しません。

 そこで、このような場合には、サイナスリフトで対応することになります。サイナスリフトとは、上顎の側面の歯肉を切開し、歯槽骨をシュナイダー膜にあたるまで四角く切り取り、露出したシュナイダー膜を丁寧に歯槽骨下端から剥離させていきます。そして、その持ち上げられたシュナイダー膜と歯槽骨の間に骨充填するわけです。通常は、この状態で5か月程待って、充填した骨が安定したころ、フィクスチャーを埋入し、更に5か月程待ちます。最後に、アバットメント、人工歯を装着して完了です。

 このように、サイナスリフトは、ダウンタイムが長いという欠点があります。サイナスリフトにも1回法といって、骨充填と同時にフィクスチャーを埋入させるやり方も存在します。ただ、サイナスリフト1回法は、歯槽骨が薄い場合には初期固定が得られないというソケットリフト同様の問題を伴います。

 したがって、最近では、歯槽骨を側面から大きく切り取るサイナスリフトは、歯槽骨を底面から小さく削るのみで侵襲度の低いソケットリフトでは対応不可能な場合に使用される傾向にあります。

 しかし、このような両者のメリット・デメリットは、殆ど患者に説明されることなく、代替法の存在も知らないまま、施術されている現状があります。こういった事情は、自由診療分野のインプラントにおいては、厳格化された説明義務の違反を問われることにも繋がっていくものと思われます。