(1)説明会とは何か?

 説明会とは、この説明義務に基づき開かれる、医師や医療機関側から患者側への当該医療事故についての説明手続のことをいいます。

 一般に、医療事故が起きた場合、医師や医療機関には、事故が起きた経緯を説明する義務があると考えられています。

 この義務の根拠としては、医療契約が準委任契約であることを根拠として民法645条準用に求める考え方や、診療義務に付随する義務ととらえる考え方など様々ですが、どちらにせよ、医師や医療機関に説明義務があること自体は肯定されているといえます。

 しかし、現状としては、地方の医療機関では患者側からの申し入れにより説明会が開かれる傾向にある一方、都市部の医療機関では顧問弁護士の指導により説明会はほとんど開かれていません。

 説明会は、医療機関や医師からの説明手続ではありますが、対話の機会であることに違いはないので、医師や医療機関側はもちろんのこと、患者側も積極的に疑問点や問題意識を明確化して臨むことで内容の充実したものになると思われます。

(2)説明会を開く目的は何か?

 説明会を開く一番大きな目的としては、患者側敗訴可能性が高い場合に患者側に無駄な紛争を起こさせず、訴訟の提起を断念させることにあります。

 患者側は、裁判を提起した場合に患者側敗訴の見込みが高い事案であっても、真実を知りたいという希望や結果が生じた顛末について担当した医師から誠実な説明を求めたいという希望が強い場合があります。

 説明会は、患者側にそのような希望がある場合に、医療機関や医師側から誠実な説明を行うことで、一方で患者側に無駄な訴訟を提起することを断念させ、他方で患者側に納得にもとづく精神的な満足を得させる目的で行われることが多いのが現状です。

 次に、上述のとおりの説明会の主目的に照らすと難しい場合が多いですが、患者側が訴訟の見通しを立てるために説明会の開催を申し入れる場合があります。

 医療過誤事件を取り扱うには、高度に専門的な医学的知見に基づく判断能力が必要になります。弁護士が医師と対等な十分に必要な知見を得ることができる場合は稀であることや、一般論としての医学的知見を有していたとしても、弁護士は日常的に臨床医学の現場にいるわけではない以上、問題となっている個別具体的な事案に医学的な知見を適用することは非常に困難であり、必ずしも効果的な主張を構成できるわけではありません。

 多数の医療事件をこなしている弁護士であれば、当該事案が交渉によって勝訴的な和解に持ち込めそうか、訴訟になった場合勝訴の見込みがあるか、完全に敗訴色が濃厚なのかなど、見通しが立つ場合もあります。

 もっとも、一度立てた見通しであっても、証拠や事情の裏付けがあってはじめて正確な見通しとなります。そこで、医学書を読んだり、協力医からの聴き取りなどにより裏付けを行うことになります。

 しかし、これらは、相手方当事者が介在しないところで原告側が調査しているにすぎません。

 他方、説明会は、一方当事者による説明が直接に行われ、事案の全体像や争点、争点に対する相手方の主張やその根拠に関する説明がなされることから、正確な事件の見通しを立てる上で非常に有益なものであると思われます(もっとも、先述のとおり、説明会を開くのは患者側敗訴の可能性が高い場合が多いでしょうが。)。

 具体的にいえば、争点に関係する画像の所見や各種の検査結果など、特殊な解読能力を要する事項につき専門家である医師から直接意見を聞くことができますし、相手方の代理人が立ち会わない状態で医師が直接、患者に対して事の経緯を理解できるように説明するため、詭弁が少なくなることが考えられます。

 また、相手方となる医療機関側からみても、患者を担当した医師が誠意をもって謝罪の意を示すことや、誠実に結果発生の経過を説明することにより、患者や患者の家族の気持ちを強い敵対感情から解放することができる可能性があります。

 このように、相手方となる医療機関側にとっても、訴訟や無用の争いを回避するための最大のチャンスともいえます。

 先述のとおり、説明会は、地方の医療機関では開かれることが比較的多い傾向にありますが、都会部の医療機関においては、医療機関側の弁護士のアドバイスにより説明会が開かれない場合があります。

 しかし、個人的には、説明会が訴訟提起を決意している患者側による証拠集めの場として利用されるなど不公正な目的をもって行われる場合でない限り、説明会を開くことは双方にとって利点が多く、不利益なことはほぼないといえるので、医師や医療機関側も開催に積極的になってもいいのではないかと思います。

(3)注意点

 説明会における対話の相手方は医師であることから、患者側の弁護士としては自らの主張をしっかりと基礎づける根拠を明確にして意見を述べなければ、準備が不十分であることを医師に見透かされてしまい、軽く見られてしまうおそれがあります。

 また、説明会に臨むにあたり、弁護士の準備が不十分であることが露見すると、依頼者との信頼関係も崩れてしまいかねません。

 ですので、弁護士としては、当該事案で問題となっている疾患や治療法に関する基礎的な医学用語は正確に理解し、医学用語の誤った理解が説明会の場で明らかになるような事態はもちろん、医学用語を不用意に誤用してしまう事態などは絶対に避けるべきであると考えられます。

 説明会の後に訴訟を提起する可能性があるとしても、説明会自体はあくまで対話の機会であるので、患者側が医療機関側と完全な対決姿勢で説明会へ臨むことは望ましくないと考えられます。

 ですので、弁護士としては、説明会に参加する患者や患者の家族に対し、生じた結果のみに着目して法的根拠や証拠の有無にかかわらず医師を一方的に糾弾する目的をもって説明会に参加することや、過度に感情的な態度や失礼な態度をとることは慎むように説得することが大切です。

 

(4)訴訟を提起することが決まっている場合に説明会の開催を要求することは適切か?

 上で述べたとおり、説明会は、事案の全体像や争点、争点に対する相手方の主張やその根拠に関する事項について把握するために有益な機会です。

 しかし、説明会に参加する以前に当該事件について訴訟を提起する意思が固まっている場合、本来は対話の場であるべき説明会が単なる患者側による証拠集めの場となってしまうことから、説明会を開催することは好ましくないと考えられます。

 もちろん、提訴を予定している場合に説明会を開いてもらったとしても違法になることはありませんが、信義上好ましいとはいえないと思われます。

 また、このようなことをすると、医療機関側との信頼関係が崩れてしまい、同じ病院に対して別件で説明会を開いてもらう可能性がある場合などに無用の不信感を与えることになり、開かれるはずであるべき説明会に対して消極的になるなど不利になることがあり得ます。

 ですので、患者側から医療機関や医師に対して訴訟提起の可能性がある場合には、説明会にて医師や医療機関側と十分な対話を行ってもなお納得できる結論が示されない場合には訴訟を提起するという準備を整えて説明会へ臨むのがよいと思われます。

弁護士 藤田 大輔