弁護士 井内健雄

(ア) ヘルニア(総論)

  ⅰ 定義

    組織の裂隙を通過し、臓器または組織全体あるいはその一部が本来の場所から脱出する状態をヘルニアと呼ぶ。

  ⅱ 構造・病理

ヘルニアの構成は原則として、①ヘルニア門、②ヘルニア内容、③ヘルニア嚢、④ヘルニア被膜の4つの成分より成る。

    ①ヘルニア門とはヘルニアの出口の裂隙のことである。

    ②ヘルニア内容とは、ヘルニア門から脱出する臓器・組織を指す。腹部ヘルニアでは、大網、小腸、卵巣などがある。ヘルニア嚢との癒着や脱出容積の増大などにより戻らなくなったものを非還納性ヘルニアと呼ぶ。

    ③ヘルニア嚢とは、ヘルニア門から脱出した壁側腹膜のことである。ヘルニアの内容が壁側腹膜で覆われず、臓器そのものがヘルニア嚢の一部を形成する場合は滑脱ヘルニアという。

    ④ヘルニア被膜とは、ヘルニア嚢と皮膚との間でこれを覆い取り囲む組織をいう。

  ⅲ 分類

    発生部位別に、外ヘルニアと内ヘルニアに分類される。なお、原告が診断されている外鼠径ヘルニアは、外ヘルニアの鼠径部ヘルニアに分類される。

  ⅳ 自覚的所見

    嵌頓した場合以外は、局所の不快感、鈍痛、牽引痛などの軽度の自覚痛を訴えることがある。また、鈍痛やヘルニア部位の膨隆、腫脹ないし腫瘤の出現などは立位、歩行などで増強し、臥位にて軽減する。

  ⅴ 他覚所見(診察所見と各種検査)

  (ⅰ)局所所見

     局所所見としては、ヘルニア部の腫脹およびヘルニア門の確認が重要である。

     ヘルニア部の膨張・腫脹については立位および臥位での観察、さらに、咳や怒責をさせて腹圧上昇時の変化を観察する。還納性ヘルニアではヘルニア内容が腸管の場合には還納時にグル音を感知できる。内容を還納後ヘルニア管に沿って指を挿入してヘルニア門を触知し、大きさ、形状などをチェックする。なお、鼠径ヘルニアでは、両側に発生することもあり、患側の反対側の観察も行う。

  (ⅱ)全身所見

     還納性ヘルニアでは、一般的に全身状態への影響は少ない。

  (ⅲ)各種検査

     ヘルニア内容の検査では、超音波検査が有用なことが多い。内ヘルニアでは、X線検査のほかに超音波検査やCT検査などの画像診断も有力な情報となる。

      ⅵ 治療

経過観察や保全的治療が行われる場合もあるが、根治治療としては外科治療を行う。待機手術と緊急手術とがあり、合併症が生じた場合には、緊急手術の適応になることが多い。

      (ⅰ)保存的治療法

         ヘルニアの脱出、増大を防止し、合併症を防ぐことを目的として行われる。長時間の立位を避けること、肥満の改善で腹腔内圧上昇を脆弱させる生活指導のほか、ヘルニアバンドなどで外側から補強して脱出防止を図る圧迫固定法などが行われる。

      (ⅱ)外科治療法

         手術では、①ヘルニア内容の還納、②ヘルニア膿の処理および③ヘルニア門の閉鎖が行われ、④再発防止としてヘルニア門および被膜の強化が行われる。

      ⅶ 合併症

主な合併症にはヘルニア閉塞、ヘルニア炎症、非還納性ヘルニアがある。そのなかで最も重篤なものにヘルニア内容の血行障害を伴ったヘルニア嵌頓があり、腸管壊死が発生した場合には時に生命の危険を招くことがある。

    (イ)鼠径部ヘルニア(各論)

      ⅰ 鼠径部ヘルニアの分類(鼠径ヘルニア・大腿ヘルニア)

        鼠径部のヘルニアは腹部ヘルニアの80~90%を占める。鼠径靭帯の上方に脱出するものが鼠径ヘルニアであり、下方に脱出するものが大腿ヘルニアである。鼠径ヘルニアは成人では、外鼠径ヘルニアおよび内鼠径ヘルニアが発生する。

      ⅱ 鼠径部の解剖

        鼠径部では鼠径靭帯の上方には精索および精巣動静脈が通る内鼠径輪があり、また下方には大腿動静脈が通過している。

        外腸骨動静脈は骨盤壁の腹膜外を走行してCooper靭帯を乗り越え大腿動静脈となるが、その直前で鼠径靭帯の腹腔側から上方に向かう下腹壁動静脈を分岐する。下腹壁動静脈の外側に内鼠径輪があり、精索および精巣動静脈はこれより鼠径管を通り外上方から内下方へ腹壁を斜めに走行して外腹斜筋筋膜下端の内側部を貫き、この部を形成する外鼠径輪より皮下に出て内下方の精巣(睾丸)に向かう。腹横筋筋膜は鼠径靭帯部の腹側で索状に肥厚して腸骨恥骨靭帯となり、内下方で恥骨とCooper靭帯に付着するが、大腿動静脈の内側でCooper靭帯と腸骨恥骨靭帯に囲まれたわずかな部位には両者から続く線維組織が付着し、この腹外側(大腿側)は裂孔靭帯により覆われる。なお、大腿動静脈の外側はCooper靭帯と鼠径靭帯および腸骨恥骨靭帯との間には腸腰筋が存在し大きなスペースを占めている。

        ヘルニア内容が下腹壁動静脈の外側の内鼠径輪より鼠径管を通って(間接的に)脱出するものが、外鼠径ヘルニアであり、内側から直接脱出するものが内鼠径ヘルニアである。また、鼠径靭帯の下とCooper靭帯の上で大腿動静脈の内側より脱出するものが大腿ヘルニアである。

      ⅲ 外鼠径ヘルニア

      (ⅰ)症状

         局所の不快感、鼠径部の膨隆・腫脹、牽引感などで、嵌頓をきたさなければ軽度である。

      (ⅱ)他覚所見

         鼠径部の鼠径靭帯の内側上方にヘルニア腫瘤、ヘルニア門、精索の肥厚などを触知する。ヘルニアの確認には懐中電灯で照らして透光性を検査する。ヘルニア内容が腸管のときは還納するときにグル音を感知できる。他動的にリズミカルに腹圧をかけて鼠径部の膨隆の出現を観察する。

      (ⅲ)治療

         手術的治療が原則である。

      (ⅳ)手術方法

         全身麻酔、局所麻酔で行われる。

         従来の手術法による体表アプローチに加え、腹膜前アプローチ、腹腔鏡下手術も行われる。

        a  従来の手術

         皮膚割線に沿って皮膚切開を行い、腺腹筋膜、外腹斜筋筋膜を切開し鼠径管を開放する。ヘルニア嚢の内容を確認しつつ露出し、精索を剥離してヘルニア嚢を腹側に腹膜前脂肪組織が付着している部分まで剥離して十分に高位で結紮切開する。末梢側のヘルニア嚢は切開のみで摘出する必要はない。

         ヘルニア嚢の結紮切離後に鼠径管修復を行う。

        b メッシュを用いた鼠径ヘルニア

          近年鼠径ヘルニアに対する修復法として各種メッシュを用いた修復がなされる。ヘルニア部の補強の際に組織にかかる張力が少なく、組織が脆弱化したヘルニアでは再発が少ない術式として知られている。用いるメッシュの種類により、PHS法、plug法、Lichtenstein法、Kugel法がある。Kugel法は、小皮膚切開により直視下で形状記憶リング装置を有するポリプロピレンメッシュをHasselbach三角(腸恥骨靭帯、腹横筋腱膜弓、腹壁動静脈に囲まれる部分)を腹膜前腔の腹膜筋下から覆い、二重に挿入するため、低侵襲で術後の疼痛も少なく日帰り手術も行われている。また、改良型として、direct Kugel法がある。