1 意義

 縫合不全とは、手術で縫合した管腔臓器(消化管、気管、血管など)の縫合部が離開することをいう。
 消化管の縫合不全の場合、腹部では腹腔内膿瘍、胸部では膿胸を形成し、いずれの場合にも進展すると敗血症となり予後を悪くする。

2 原因

 縫合法の不適、被縫合組織同士の接触のずれ、接触面内への異物の介入、組織の挫滅、血腫の存在、縫合部にかかる強い張力、感染などがある。

3 治療

 縫合不全部を切除、デブリードマンを行い再縫合する。

4 裁判例

(1)手技上の過失の有無が問題となった裁判例

 名古屋地判平成20年2月21日

【事案】

 Xは胆嚢結石症、大腸(S状結腸)腫瘍に罹患していることが判明し、Y病院で手術を受けることとなった。手術は、まず腹腔鏡下で胆嚢を摘出し、ペンローズドレーンを留置し、創縫合を行った後、左下腹部を切開し、S状結腸を摘出して、Gambee縫合(縫合の手法の1つ)にて結腸の吻合を行い、ペンローズドレーンを留置するという内容であった。その後、縫合不全による腹膜炎が生じ、再手術が行われたが、これに縫合不全による腹膜炎に起因して腸管癒着の損害が生じたとするものである。

【判旨】

 吻合手技は縫合不全の発生原因となりうるが、それ以外にも縫合不全の発生原因となるものがあるから、縫合不全が起こったことをもって、直ちに吻合手技に過失があったということはできない。そして、縫合不全を防ぐためには、縫合に際し、適式な術式を選択し、縫合が細かすぎたり結紮が強すぎたりして血行を悪くしないこと、吻合部に緊張をかけないことが必要であるとされていることを考慮すると、債務不履行に該当する吻合手技上の過誤があるというためには、選択した術式が誤りであるとか、縫合が細かすぎた、あるいは結紮が強すぎた、もしくは縫合部に対し過度の緊張を与えたと認められる場合に限られると解するのが相当である。

 そして、本件手術は、縫合不全が発生しやすい大腸(S状結腸)を対象とするものであったこと、Xは喫煙者であり、縫合不全の危険因子がないとはいえず、縫合手技以外の原因により縫合不全が発生した可能性が十分あること、医師による吻合の方法が不適切であったことを裏付ける具体的な事情や証拠はないことを考慮すると、Xに生じた縫合不全が医師の不適切な吻合操作によるものであると認めることはできない。

【評価】

 多くの裁判例では、縫合不全の原因には手技上の過失によらないさまざまなものがあるから、縫合不全の発生という結果があったとしても、直ちに手技上の過失があったと推認することはできず、手技が具体的にどのような点で不適切であったのかが認められる必要があると考えられる。

(2)術後管理上の過失の有無

 高松高判平成22年2月25日

【事案】

 Xは、大腸がんの治療のために腹腔鏡手術を受けたところ、手術翌日から発熱や腹部痛が生じ、その後腹腔内膿瘍を認め、縫合不全の発症を確認した。

【判旨】

 本件手術後、Xには縫合不全の症状と整合する腹痛、発熱、発赤等があり、白血球数値やCRP値も異常に高かったこと、白血球数値は9月21日(手術日から6日後)の皮膚切開・排膿処置によって一旦軽減はしたものの、正常値になったわけではないこと、9月21日に排膿してもなお創部の治癒が遅く、手術日から9月28日には創部のガーゼに淡茶色の汚染が見られたこと、9月29日に縫合糸を抜糸しても症状は改善しなかったこと、9月30日の段階でXは創部痛とともに創部からの異臭を訴えていることに照らすと、遅くとも9月30日の段階で縫合不全の発症を疑い、経口摂取を禁止し、CT検査等を行って、縫合不全の発症の有無を確認すべき義務があった。

【評価】

 創部のガーゼの汚染や創部からの異臭が縫合不全の発症を疑う根拠として重視され、CT検査等を行うべきものとされたものと考えられる。

5 まとめ

 外科手術をする医師は、縫合不全は手術を数多くこなしていれば必ず起こりうる合併症であり、医療ミスではないというが、裁判例でも手技がどのような点で不適切であったのかを具体的に認められなければ手技上の過失は認められない。

 これに対して、縫合不全後の処置に関しては、縫合不全を疑う所見があればすぐにCT検査等を行う義務が生じ、それを怠ると医師の過失が肯定できると考えられる。

以上