1 看護師の業務

 看護師とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう(保健師助産師看護師法5条)。
 そして、看護師も医療の担い手であり、患者に対し、良質かつ適切な医療(看護)を行わなければならない(医療法1条の4第1項)。

2 看護師の民事責任に関する裁判例

(1)療養上の世話

ア 誤嚥・窒息

 福岡地判平成19年6月26日判時1988号56頁

【事案】

 訴外A(大正12年生)は、尿路感染症等の治療のため、平成15年12月2日からY1の経営するB病院に入院していたが、平成16年1月12日、おにぎりを誤嚥して窒息するという事故(以下「本件事故」という。)に遭い、意識が回復しないまま、同年10月10日、呼吸不全で死亡した。そこで、Aの次男であるXは、看護業務に従事していたY2の過失を主張し、Yらに対して、不法行為等に基づき総額4050万円余の損害賠償を請求した。

【判旨】

 本判決は、前回入院時のAの嚥下障害の状態、入院後の摂食状況、歯科医師による義歯装着の指摘、本件事故当時の看護体制、本件事故の状況等について認定した上、①これまでAがおにぎりを摂食した際にむせたことはなく、Aが歯肉を利用するなどしておにぎりを咀しゃくすれば嚥下可能であり、注意して嚥下する限り誤嚥することはないことを考慮すれば、おにぎりを提供したこと自体が直ちに過失と断じることはできない、②Aは、摂食の際、義歯の装着を勧めてもこれを拒否しており、看護師が嫌がる患者本人に強制的に義歯を装着することは実際上不可能であるから、Y2がAに義歯を装着すべき義務を怠ったとすることはできない、としたが、③Y2としては、Aが摂食する際、一口ごとに食物を咀しゃくして飲み込んだか否かを確認するなどして、Aが誤嚥することがないように注意深く見守るとともに、誤嚥した場合には即時に対応すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、Aの摂食・嚥下の状況を見守らずに、約30分間も病室を離れていたのであるから、この点に過失がある、などと判断してYらの損害賠償責任を肯認し、Yらに対して総額2882万円余の支払を求める限度で、Xの本訴請求を認容した。

【評価】

 本件では、Y2のAに対する見守り状況については争いがあるが、本判決の認定のようにY2が約30分も病室を離れていたとすれば、高齢な患者に対する看護としては到底許容される余地はなく、看護上の過失を認めた判断は極めて妥当であろう。

イ 転倒・転落

 名古屋地裁豊橋支判平成15年3月26日判タ1188号301頁

【事案】

 Xは、平成8年7月4日、下腹部痛が出現したとの主訴により、Yの経営するA病院の救急外来を受診したところ、急性虫垂炎の疑いがあると診断され、経過観察をするため、A病院に入院した。翌7月5日、Xには強度の腹膜刺激症状が見られたため、A病院の医師は、急性腹症として緊急手術をすべきと判断し、腰椎麻酔の上、Xに対して虫垂を切除し、腹腔ドレナージ術(以下「本件手術」という。)を施行した。その後、Xは、熱も下がり、流動食や粥も食べられるようになったが、下血があり、帯下に血性が混じ、癌も疑われていたところ、同月13日、排便の際身体障害者用トイレで倒れ、気を失った。そこで、A病院では、直ちにXに対して、頸椎レントゲン及びMRIを実施したところ、第5及び第6頸椎の脱臼と頸椎損傷が明らかになったため、Xや家族の希望もあり、救急車でXをB病院に転送した。Xは、その後、B病院で治療を受けたが、右頸椎損傷等により四肢が完全に麻痺する後遺障害が残り、排尿及び排便は自力でできず、常時介護を要する状態になってしまった。

【判旨】

 まず、裁判所は、Xのトイレでの転倒事故は、Xがつまずいたり、滑って転倒したものではなく、Xが下血を含む出血により貧血を起こし、脳細胞への酸素供給が不足し、これに排便時の負担も加わって失神を起こしたことを原因とするものであることが明らかであると認定した。
 そのうえで、Xの便は黒色便で、鮮血が浮いており、明らかに出血量が増加傾向にあったのであるから、A病院の医師らは、看護婦らに対し、Xの出血の状況等に応じて、Xに失神を起こす可能性について注意を促し、Xの排便時にトイレまで付き添うなどの指示をすべき注意義務を負っていたのに、これを怠った過失があった、A病院の看護婦らは、Xの出血量の増加を踏まえて、Xに対し、失神を起こす可能性について注意を促した上で、排便時に相当な量の出血があった場合には立ち上がらずにナースコールで看護婦を呼ぶよう指示をしておく注意義務があったのに、これを怠った過失があった、などと判断してYの民法715条の責任を肯認し、Yに対して、総額5745万円余の賠償支払いを命じた。

【評価】

本件は、手術を受けて入院中の患者がトイレ内で転倒して重篤な後遺障害が残った事案について、病院側の術後管理の過失を認めた1つの事例として、実務上参考となるものである。

ウ 褥瘡

高松高判平成17年12月9日判タ1238号256頁

【事案】

 X(昭和37年生)は、平成13年3月16日、Y 病院で麻疹及び重症の肺炎(疑い)と診断され、全身麻疹、呼吸困難の症状や高熱を出していたことから即日入院した。
 その後、Xの熱は一旦下がったものの、同月19日から高熱を出して意識障害を起こし、麻疹の合併症として髄膜炎が疑われた。同月21日からは自力で寝返りできなくなり、発汗も多量で尿失禁もあったため、Y病院の看護師は、髄膜炎の治療と平行して、ベッドバスや寝間着の更衣を行い、尿路カテーテルの挿入も行われた。Y病院にはエアーマットの備付けもあったが、Xには利用されなかった。同月25、26日ころには看護師と普通の会話ができる程度に回復し、熱も落ち着いてきたが、両下肢の運動障害が生じた。この間の同月24日から同月26日にかけて、Xの仙骨部や左踵部に褥瘡が発症しているのが発見され(仙骨部の最終診断はⅣ度、左踵部の最終診断はⅡ度)、仙骨部については同年8月21日ころに、左踵部については同年11月6日ころにそれぞれ略治するまで、他院での入通院を余儀なくされた。

【判旨】

 Xの意識障害が起こった平成13年3月19日から同月24日までの間、Y病院の看護師らが2時間毎の体位変換を中心とする褥瘡予防措置がとられたか否かについて検討を加え、証拠(看護記録等)上、2時間毎の体位変換がされたことを積極的に認めることは困難であること、Y病院がXの実母に日額2000円のエアーマットの使用を勧めたとの看護師の証言は信用できないこと、エアーマットを使用し、2時間毎の体位変換を励行している高知医大病院の褥瘡発生率からすれば、2時間毎の体位変換を実施していれば、Xのような重度(Ⅳ度)の褥瘡が発症することは極めて稀であることなどを指摘して、Y病院の看護師らは、Xに対し2時間毎の体位変換を中心とする褥瘡予防措置を実施しなかった過失があると認め、診療契約上の債務不履行に基づき、慰謝料120万円の支払を命じた。

【評価】

 原判決と本判決とで結論を異にしたのは、Xが自力で寝返りできなくなった期間中、Y病院の看護師らが2時間毎の体位変換を行っていたか否か、エアーマットの使用を勧めたか否かという事実認定の問題につき、原審が肯定したのに対し、本判決は否定したことによるものである。

(2)診療の補助

ア 患者の観察

 大阪地判平成18年7月14日

【事案】

 産科医が出産を控えた妊婦の観察を准看護師に任せ、近接する自宅に帰宅していたところ、臍帯脱出の報告を受けて駆け付けたが、その後に出生した児は仮死状態であったというものである。

【判旨】

 准看護師は、遷延一過性徐脈の所見を正しく認識することができず、同じく18日午前3時ころ、原告のコールを受けて訪室し、ネオメトロの自然抜去を認めて分娩が進行しているものと考えて、助産師にはその旨の連絡をしたものの、産科医への連絡はこの段階では一切行っていなかったのであって、この准看護師の対応は、原告の分娩監視における注意義務違反に当たると認めるのが相当である。

イ 採血

 名古屋地判平成14年3月15日判時1796号133頁

【事案】

 原告は、平成4年4月4日、脇腹痛のため、被告病院泌尿器科を受診した。尿検査の結果、異常は認められなかったが、原告が痛みを訴えていたことから、点滴により痛みを抑えることになった。同日午前11時ころ、被告病院の看護婦が原告の右腕の肘部外側の部位から点滴用の注射針を静脈に刺入して点滴を開始した。原告は、点滴用の注射針を腕に刺した途端に、針の刺入部位付近から右腕の指先にかけて電気が走るような鋭い痛みを感じ、痛いと叫んだが、看護婦は針を刺せば痛みがあるのは当然と言って、本件注射部位に縦横約1センチメートルのテープを貼って点滴針を固定した。その後は痛みも治まり、点滴が続けられた。正午近くになり、原告は点滴針を刺したまま、看護婦の指示に従って部屋を移動したが、その際点滴の針がグラグラと動いた。原告は、点滴を行う前は右手に異常を感じたことはなかったが、点滴終了直後、手足の先が痺れたような感覚や頭がぼうっとした感じを覚え、翌日には右手の肘部が腫れ上がり、手に力が入らず、食事中に箸を落としたり、字も書けない状態となった。原告は、数か所の病院で診察を受け、同年12月17日、岐阜県立岐阜病院(以下「岐阜病院」という。)の脳神経外科において、右橈骨神経不全麻痺と診断された。

【判旨】

 橈骨神経は、肘関節上部外側では静脈の付近を走行しているから、看護婦は、橈骨神経走行部位付近である肘関節上部外側の部位に点滴(静脈注射)をする場合には、付近の橈骨神経走行部位等不適切な部分に注射針を刺入することのないように十分に注意する義務があるというべきである、とし、当該看護師に過失を認めた。

以  上