東京地判平成19年3月29日

鉗子分娩の方法で分娩介助を受け、出産後ほどなく出生した子が脳浮腫を生じて痙攣重積等の高度の神経症状を来たした後、脳死状態に陥り、その後に感染症に罹患して死亡した事案

<医学的知見>

1 頭部分娩外傷

 頭部は最も分娩外傷を受けやすい部位

 頭蓋内出血による頭蓋内圧亢進により生命維持に必須の中枢が破壊されることがあり、その場合は死亡率も高くなる

 頭部分娩外傷の頻度は、size、space、forceの調和が保たれていない分娩の場合では上昇し、例えば頭部の形状が短時間で急激に変化を受けるような高位鉗子分娩等の過程では危険性が上昇するといわれている(段階的な内圧の上昇には耐えることができる硬膜も、突発的な加圧に際しては断裂してしまうことがある。)。

2 頭部分娩外傷として臨床上現れる症状

(1)産瘤

(2)頭血腫及び帽状腱膜下血腫

ア 頭血腫
児が産道を通過する際に受ける外力により頭蓋骨の骨膜が一部剥離して生じる骨膜下血腫であり、鉗子や吸引分娩によっても骨膜下血管の破綻を来たし血腫となることがあるが、自然分娩でも生じることがある。

イ 帽状腱膜下血腫
骨膜とその直上を被う帽状腱膜との間の出血
骨膜と帽状腱膜の間の疎性結合組織はずれやすく血管も豊富であるため、骨縫合部軟骨の断裂や導出動脈自体の牽引性断裂で出血して発症する
発生頻度は、全出生時の1%未満で、多くは吸引分娩で生じるとされているが、鉗子分娩などで頭部に強い外力が働いた場合に生じることもあり、また、自然分娩の場合にも発症することがある
帽状腱膜下に血腫が形成されるため、骨縫合部を超えて頭皮下全体に血腫が拡がりやすく、その場合は境界、腫脹及び波動は不明瞭である場合が多い
顔面などに浮腫を伴い、高度な場合は指圧痕を認めたり貧血を起こしてショック状態となり、DIC(播種性血管内凝固症候群)を合併することもある
治療は、ビタミンK2シロップの使用が挙げられるが、出血性ショックの徴候があれば集中治療を開始するとされている
なお、帽状腱膜下血腫のような頭血腫が生じた症例の4分の1に線状骨折を認めたとの報告もある

<本件での判断:帽状腱膜下血腫に関する部分>

1 帽状腱膜下血腫の発生原因

・帽状腱膜下血腫は娩出直後から発生していたと解されること

・平成12年3月8日午後4時ころには頭囲が生下時(同月7日午後9時06分ころ)に比べて2.4cmも増大し、その後頚部に至るまで血腫が広がったこと

・本件鉗子分娩の経過や帽状腱膜下血腫の発生原因に係る医学的知見

Dの帽状腱膜下血腫が本件鉗子分娩に起因して(少なくとも一因となって)発生したことは明らか

2 帽状腱膜下血腫による貧血の程度

・Dの帽状腱膜下血腫は上記のとおり後頭部まで広がるほどの重度のものであった

反面

・帽状腱膜下血腫による貧血はあったといえるが、ヘモグロビン値からみれば高度貧血といえるほどのものではなく(S鑑定人は、胎盤出血を来してヘモグロビン値が4あるいは5g/dlになった場合でも低酸素により脳浮腫を来したりしないとの意見を述べている)

また、TP値も新生児としては異常値(低値)とまではいえないことが認められる。

帽状腱膜下血腫による一定の出血が存在したとしても、それをもって脳循環血液量の低下により脳機能に影響を与えるほどの低酸素状態に陥ったとか、それによって脳浮腫を生じたということはできず、結果との因果経過はない。

以上

弁護士 池田 実佐子