1 神経障害性疼痛とは

 神経性疼痛とは、侵害受容器が侵害刺激を受けていないにもかかわらず生じる疼痛です。

 神経組織の損傷がきっかけになっているのですが、組織損傷自体は治癒しても疼痛が継続し、しかもその範囲が次第に拡大していくという特徴をもっています。

 また、通常では痛みと感じないような刺激でも痛みと感じてしまう、いわゆる「アロデニア」を伴うことも多いようです。

 治療面でも難治性のものが多く、通常の鎮痛薬が効きにくい(治療抵抗)という特徴を持っています。そのため、通常の薬物療法に加えて、神経ブロックや脊髄電気刺激療法などもなされることが多いようです。

 代表的なものとして、帯状疱疹後神経痛や、CRPS(複合性局所疼痛症候群-complex regional pain syndrome)、三叉神経痛などがあります。

2 裁判上の争点

 神経障害性疼痛が発症するきっかけとなるのは、採血、注射、手術などの手技です。

 手術はともかくとして、日常的に私たちが遭遇している採血や注射でもなるなんて少し驚きですよね。でも、裁判例では意外にもけっこうあります。

 裁判例を見る前に、ここで確認しておきたいことが2点あります。

 1つめは、医師や看護師の過失をどのように証明するかです。

 臨床上確率は低いそうなんですが、採血や注射の際に、注射針で神経を傷つけてしまうことがあるんです。
 しかも、ここで問題なのは、神経損傷を100%回避することは不可能だそうです。つまり、医師や看護師に手技ミス(過失)がなくても、一定程度の割合で神経損傷が生じてしまうわけです。

 したがって、裁判では、採血や注射によって招いた神経障害性疼痛が、医師・看護師の手技ミスによるものなのか、それとも不可避的に招いたやむを得ないものなのかという点が争いになります。

 2つめは、神経障害と疼痛の因果関係です。

 CRPSなどの神経障害性疼痛は、損傷したと考えられる末梢神経支配領域を超えて痛みが生じているわけなので、その痛みが詐病ではないとしても、その神経障害から生じた痛みなのかという点が問題とされます。つまり、「本来の神経支配領域を超えているのだから、痛くないはず。だとすれば、その痛みは当該神経障害とは無関係ではないのか」という形で問題提起されてしまうのです。

 もっとも、最近では、神経障害性疼痛の医学的知見が深まり、この点の立証上のハードルは下がっていると感じます(但し、麻酔科のペインクリニックの分野が専門でないと、知見は必ずしも深くはないという印象も受けますが)。

3 裁判例

 さて、以上を踏まえて裁判例を見てみましょう。

 まず、医療機関の手技ミスを認めた肯定例として、大阪地判平成10年12月1日(判例時報1693号105頁)があります。

 この事案で裁判所は、看護師が注射針を刺入した際に患者さんにしびれや電撃痛が走り、患者さんがその旨を訴えたのだから、再度刺入すれば神経損傷を生じることを予見できたとして、看護師の手技ミスを認めました。

 ほかには、看護師が注射針を深く刺しすぎて正中神経を傷つけたとして過失を肯定した裁判例もあります(高松高判平成15年3月1日、判例タイムズ1150号238頁)。

 次に、医療機関の責任を否定したものとしては、「適切な手技での採血によっても神経損傷が生じ得るのであって……、神経損傷は不可避な合併症である」とした裁判例があります(東京地判平成19年4月9日、裁判所ウエブサイト)。

 これらの判例を見ると、争点として重要なのはやはり過失です。

 そもそも、先の否定例からも分かるように、本来神経損傷は、採血や注射により不可避的に発生する合併症なのです。

 したがって、手技ミスとするためには、先に挙げた判例のように、患者さんに電撃痛が走ったために医療機関側に神経損傷を予見できた場合や、注射針を深く刺入し過ぎたなど、神経損傷をうかがわせる特段の事情を立証していくことが裁判上の重要なポイントになると思われます。